3月8日は中国では、〝婦女節〟(国際婦人デー)という祝日にあたる。
日本人にとってはあまりなじみのないこの祝日。
いったいどういう日なのか?
発祥はニューヨーク
女性の社会進出を求めて
婦女節の起源は、1904年の3月8日に、
ニューヨークの女性労働者たちが婦人参政権を要求してデモを起こしたことに端を発する。
これを受け、1910年にコペンハーゲンで行われた国際社会主義者会議において、
3月8日を女性の権利獲得や男女平等の記念日とするよう提唱されたのだ。
その後1975年には、国連によって正式に「国際婦人デー」と定められた。
このことから、婦女節は女性が主役の日ではあるが、
決してただ女性を奉るだけの日ではなく、
その根底には「男女平等」という基本理念があるのだということが伺える。
女性管理職率、世界5位
子育てしやすい環境が鍵
女性が社会進出をする上でネックとなるのは、子育て。
日本では、妊娠・出産をきっかけに退職する女性も多い。
この点に関して、
上海で働く女性のキャリアデザインセミナーやカウンセリングを行う宮崎さんに話を聞くと、
「中国では、女性が結婚・出産してからも働くのが当たり前という意識が強いです。
ですから男性上司も家庭の事情に寛容で、産休が取りやすいんです。
また、家政婦さんのお給料が(日本と比べて相対的に)安く、
両親や親戚のサポートも受けやすいので、女性が社会進出しやすい環境にあると言えるでしょう」とのこと。
実際、2009年3月に国際会計事務所「グラント・ソントン・インターナショナル」が発表した
「国際商業アンケート調査報告」によると、
中国大陸部私営企業の企業管理職のうち女性の占める比率は平均31%となり、
世界36カ国・地域の中で5番目。
なお、日本はわずか7%で、最下位だった。
特に上海市は、私営企業に女性管理職が存在する比率は83%と、
中国各都市のうち広州市と並んでトップとなった。
中国で国際婦人デーが定められたのは1924年。
今の状況は、早くから女性の地位向上を目指し、活動を行ってきた成果と言えるだろう。
さらに宮崎さんは、「近年は、上海に来る日本人女性も増えています。
こちらで子育てをしながら働いている人もいますが、
日本と比較すると子育て環境に恵まれていると言えるのではないでしょうか。
ただし、信用のできる家政婦さん探しなど、海外特有の悩みもつきものですが」と話す。
世界でも高く評価される中国・上海女性の働く環境。
それでは、女性の社会進出を記念する婦女節には、
具体的にどのようなことが行われているのかを見てみよう。
女性のみ半日休み
各種プレゼントも
日本では祝日といえば、会社が休みになるというのが一般的。
中国でも基本はそうだが、「婦女節」では国家規定により、
中国系企業では基本的に女性のみ午後半日休みとなるのだ。
中国系企業と取引している人は、午後になって女性の担当者に電話しても、
もう帰ったと言われてしまう可能性が高い。
急ぎの仕事は早めに済ませておいた方が無難だ。
さらに企業によっては、シャンプーやチョコレートなどのお菓子、
映画の割引チケット、タオルセットなど、ちょっとしたプレゼントを配る。
もちろん受け取れるのは女性社員のみだが、会社によっては、
奥さん用として既婚男性社員にも配るところもあるという。
以前、中国私営の印刷・制作会社に勤めていた楊さん(24歳)は、
「僕は奥さんどころか彼女もいなかったから、もちろん何ももらえなかったよ。
独身男性にとっては肩身の狭い思いをするちょっと辛い日だったね(笑)」
と、当時を思い返し苦笑いしながら語る。
確かに、いささか同情を禁じえない状況だ。
映画鑑賞に食事会
小旅行や紅包まで
さらに国有企業に勤める王さん(27歳)の話では、
女性社員が午後半休になるのはもちろんのこと、午前中にも映画鑑賞などの活動を行い、
豪華な昼食会を開くのだという。
加えて数年前には、日帰り、または1泊2日の小旅行も行っていたというから驚きだ。
これでもかとばかりに、500元程度の「紅包」(臨時ボーナス)を配った年もあったという。
当然、対象となるのは全て女性のみだ。
「今までに行ったのは、沙家浜(江蘇省常熟市にある水郷)とか、
中国皮革城(浙江省海寧市にある皮革製品専門市場)とかよ。
男性社員を残して行くのは何だか申し訳ない気もしたけど、
女性社員だけで羽を伸ばせて楽しかったわ~。
今年はどうやら行かせてもらえないみたいだけど、
午後からは仲のいい女性の同僚たちと買い物に行く予定なの!」
と、王さんは嬉しそうに語ってくれた。
しかし女性同士で楽しむのにはいいが、休みになっても彼氏や夫は仕事中。
ぽっかりと空いた時間をもてあまし、ただ何となく過ぎてしまったという人も少なくないようだ。
そこで女性に付き合うため、男性も休みにしてほしいという声が女性からも挙がっているという。
百貨店は各種セールを
女性限定特典も多数
王さんのように女性で買い物に繰り出す人をターゲットに、
街では各百貨店や店舗で婦女節セールを行っている。
「前にバーバリーのTシャツが1着たった200元で売られていた時があったの。
母親の分まで一緒に買ってあげたらとっても喜んでくれて嬉しかったわ」と王さん。
2009年の婦女節には、南京路の新世界城で38時間営業を行い、
延べ40万人の来客数を集めたこともある。
当日は3月8日にちなんで「3・8折」(62%オフ)サービスなどを実施。
総売上額は1・1億元にも達したというから、商業的にも意義の大きな祝日だと言えるだろう。
ただし売り手側にとっては利益度外視で行っているサービスも多く、
春節後の忙しい時期ということもあり、
具体的な内容については直前にならないと決まらない所が多いようだ。
しかし、普段は手が届かないような高級ブランドでも
特別価格で商品を手に入れることができる貴重なチャンス。
当日は各百貨店やお気に入りの店をチェックしてみよう。
男性の過ごす婦女節
花や小物をプレゼント
一方、上海の男性にとっての婦女節は、〝女性に奉仕する日〟と言えるかもしれない。
婦女節当日には、家族サービスに励む男性たちが多く、
既婚男性は妻に、未婚男性は母にプレゼントをあげたりするのが一般的だ。
まずは未婚男性から婦女節の過ごし方を聞いてみた。
広告会社の営業部に勤める于さん(28歳)によると、
「毎年いつも何かするわけじゃないけど、僕が大学生の頃、
お母さんが元気をなくしていた時期があったから、お父さんと2人で花をプレゼントしたよ。
そしてご飯を作らなくてすむように、ちょっと豪華な外食に行ったんだ」とのこと。
ほかにも、バレンタインデーや母の日と違い、プレゼントは個人によって千差万別(下記の表を参照)。
この日は女性の希望を尊重するといった傾向が強いようだ。
一方、既婚者の意見としてビルの保安を務める陳さん(52歳)は、
「妻とはもう何十年もの仲だから、今更特に何かしたりはしないよ。
若い頃は髪飾りやネックレスなんかをプレゼントしたりしたけどね」と照れくさそうに話す。
また、国有企業に勤める胡さん(31歳)は、
「中国には女性向けの祝日が多すぎるよ。バレンタインデーに婦女節に母の日に…。
その度に何かプレゼントしてたら身が持たないよ(笑)。
だから妻には特に何かあげたりはしてないね」とキッパリ。
中国では、バレンタインデーにも日本とは違って、男性が女性にバラの花などをプレゼントするのが一般的。
確かにこうなってくると、逆に不公平なのでは? という気もしてくる。
8月3日は男性の日!?
雑誌編集長が提唱
そう考える中国人男性は多かったらしく、
2005年には男性向け雑誌の編集長が婦女節の逆をとって8月3日を「男人節」にしようと提唱した。
これに対し、何と上海では50社もの企業が賛同し、男性社員たちに休暇を与えたのだ。
当日は各地で男性限定のパーティーなどが開かれ、休暇をもらった男性社員たちがこぞって出席したという。
この騒ぎを受けて、テレビ局では「男人節を定めるべきか」というテーマで討論会が行われた。
インターネットや携帯を通して視聴者の意見を募ったところ、
2万3000人もの視聴者が「男人節」を支持したという。
反対票はわずか2900票で、支持率は約89%に達したのだ。
とはいえ、婦女節が設定されるまでにも長い年月が必要だった。
「国際男人節」が実現する日はまだまだ遠いかもしれないが、大切なのはあくまで男女平等の精神。
それを忘れないようにすれば、上海の働く環境は、今後ますます発展していくだろう。
~上海ジャピオン3月5日号より