中華食べ合わせダイエット

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専門家が語る食事療法

 上海で管理栄養士&国際薬膳師として活躍する大倉文子(おおくらあやこ)さん。大倉さんは、「食べ物こそが身体を作る」と考える「医食同源」の発想に興味を持ち、上海で中医学を習得。現在は、栄養学と東洋医学理論をベースに「食」を解説している。そんな大倉さんに、「太らないための食事療法」について話を聞いた。

きちんとした代謝がカギ

 「本気でダイエットを志す人は、カロリーを制限したり、油を抜いたりして必至に努力をしているもの。でも、なかなか思うようには痩せられないのが現実ですよね…」と、話し出す大倉さん。ではなぜ、その努力はなかなか報われないのか。
 「確かに、理論上は食べなければ痩せます。でもそれは一時的なものなんです。ダイエットで大切なのは、食べたものをきちんと代謝すること。それだけで脂肪にはなりにくく『太らない』というわけなんです。肥満体質の方の中には、過度なカロリー摂取によるものもありますが、偏食が原因で身体の栄養バランスが崩れ、きちんとした代謝が行なわれずに太ってしまっている人もいる」という。

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陰と陽の食事バランス

 では、食べたものをきちんと代謝するためには、どのようにしたらよいのだろう。
 それは、「選り好みせず、色んな食品を適量食べること」。一見、簡単そうにも思えるが、ダイエットにつまずいている人の多くは、ここに問題があるという。
 「瘠せたいからと言って、肉を食べず、野菜や果物ばかり食べる人を見かけます。これはかえって逆効果。正常に代謝するためには、身体を偏りがない『平性』の状態に持っていくのがポイントなんです」と、力説する。
 「私たちが日常口にしている食材は、『温熱』、『寒冷』、『平性』のいずれかの性質を持っています。中医学的には、『温熱』を『陽』、『寒冷』を『陰』といいますが、『陽』に属する肉や魚などの食材には、身体を温める効果があります。逆に『陰』に属する豆類や野菜などの食材には、身体を冷やす効果があります。身体が『陽』に偏っていると、吹き出ものや口内炎などの症状が起こり、逆に、『陰』に偏っていると、貧血や冷え性などの症状が起こるのです。これらの症状を見て、自分の身体に不足しているモノを食で補うことが、新陳代謝を助け、ゆくゆくは、ダイエットにつながるのです」と、中医学の観点から話す。

ストレス食べの脅威

 「とは言っても、ダイエットがストレスになるのが一番NG。人の身体は、ストレスを感じると内臓活動が弱まり、代謝に影響をきたします。食事は楽しく食べるべき」と、大倉さん。次からは、アドバイスに基づいて、脂っこい中華料理を、食べ合わせで楽しく食べる方法を紹介する。

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紅焼肉は恐るるに足らず
ニンニクパワーで肥満予防

 豚肉を使った上海の名物料理といえば、「紅焼肉(ホンシャオロウ)」。醤油や砂糖であめ色に照り輝く塊は、誰の目にも旨そうに映ることだろう。
 でも気になるのは、見るからに太りそうなプルンプルンの脂身…。「確かに紅焼肉の豚バラ肉は、脂質を多く含む食材です。また、この料理は多くの糖質も含んでいます。この糖質を取りすぎた場合、身体が飢餓に備えて、余分なエネルギーを脂質に変えて蓄えようとするんです。これが肥満の原因になるんですよね」と、大倉さん。
 それでも食べたいと言うのが人情だ。そこで、オススメの食べ合わせを大倉さんに聞いた。「それには、ニンニクをあえた前菜『蒜泥黄瓜(スワンニーホワングアー)』が一番。ニンニクは、糖質を脂質に変えるのを妨げる性質を持つため、肥満予防にはもってこいなんですよ」と、太鼓判を押す。「さらに、食べたら消化をすればいいわけで、食物繊維が多く含まれる椎茸を使った『香菇炒青菜(シアングーチャオチンツァイ)』を合わせて食べるとなお◎。食物繊維が、胃腸の働きを活発にし、便秘まで解消してくれるので、一石二鳥ですよ」と、女性が大喜びしそうな話も飛び出した。
 とは言っても、豚肉の脂身は、所詮脂身。「食べあわせで頑張ったとしても、食べすぎは禁物」とのこと。「豚肉のコラーゲンは、外側の皮の部分に多く含まれています。プルンプルンの脂肪部は、控えるに越したことはないですね」と、チクリ。
 中華料理には、豚肉料理がいっぱい。大倉さん曰く、豚肉には暑くなると消耗しやすいビタミンB1も豊富に含まれているとか。食べ合わせで工夫して、上手に栄養分を補給したい。

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もはやカロリー測定は不可能
油で煮た水煮魚の対策とは!?

 魚を使った中華料理の中で、圧倒的人気を誇る「水煮魚(スイジューユー)」。唐辛子と山椒をふんだんに使った痺れる旨味が、酒の肴、ご飯のお供にもってこいだ。
 しかし、深めの大碗に溢れんばかりにそそがれているのは、大量の油。お碗の底に沈む魚やもやしが、存分に油を吸っていることは、誰の目にも明らかだ。「確かにこれは、カロリーを考えるだけで恐ろしくなる料理です。単純に計算すると、油は大匙1杯(9㌘)あたり81カロリーなのですが、尋常でない油の量を考えると…」と、口ごもる大倉さん。もはやカロリー計算は不可能なのだそう。
 でも、四川の代表料理の1つとして接待などにも欠かせないこの料理。これも食べ合わせで何とかなればと、大倉さんに無理難題を押し付けてみる。
 「実はこれ、食べ合わせ的観点から見ると、実に合理的にできているんです。確かに大量の油を使って魚を煮ているために、魚が油を吸っているのは明らかです。でも、ポイントはこの『山椒』と『唐辛子』。これらを一緒に食べれば、代謝を高め、脂質を燃焼してくれるんですよ」と、あっさり回答し、不安な気持ちを吹き飛ばしてくれた。
 それでも、「山椒」や「唐辛子」は、一度にたくさん食べられない。「それなら、セロリと豆腐を炒めた『芹菜豆腐干(チンツァイドウフガン)』を別で注文するとOKです。低カロリーな上に、セロリには血液をサラサラにする成分が含まれていますし、豆腐はデトックス効果が高いので、絶好の料理ですね。ほかには、燃焼系の酵素を持つゴーヤー料理もオススメですよ」と、大倉さん。
 水煮魚にも攻略法があったとは驚きだ。今後は、燃焼系の食材と一緒に楽しもう。

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課題は油をいかに制すか
キノコが対油の万能薬!?

 日本ではマーボーナスという名でお馴染みの「魚香茄子(ユーシャンチエズ)」。ピリ辛ながらも、あま~いタレが、世代を超えて愛され続けている。
 とはいえ、中には油がいっぱい。人によっては、「マーボーナス丼」として食べるが…。「それはダイエット的には絶対NG!ただでさえ、ナスの素揚げの吸油率は、100㌘中12%と食材の中でも上位で、炒める時間に比例して、カロリーがどんどん上がっていくんです。それをご飯にかけるとなると、残った油までご飯が全て吸収するので、かなりの確率で太ります」と、キッパリ言い切る。
 でも、リーズナブルな上に美味しい魚香茄子。極力太らないように食べられないかと、大倉さんに相談してみると、「だったら、キノコを使った料理とともに食べるのがオススメですよ。キノコ類は、食物繊維が豊富で油の吸収を妨げることができるんです。ほかにも、油や肉の消化を助ける漢方食材『山査子(さんざし)』も◎です」と、紅焼肉に続きキノコの効能を挙げた。
 このほか、中華料理で前菜などに出てくる、ピーナッツを塩で炒めた『炒花生米(チャオファーシェンミー)』も食べ合わせがいいという。「ナッツ類には、血液循環をよくする作用があり、ナスとの相性がいいんです。実は、ナスの皮の色素の一部には、ナスニンという成分があって、血管を丈夫にする力があるんです。まずは、ナスで血管を丈夫にして、ナッツで血液循環をよくする。これぞ、黄金の組み合わせですね」と、力説する。
 キノコ類に油の吸収を妨げる効能があると分かれば、利用しない手はない。食べ合わせで栄養分だけをしっかり吸収していきたい。

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目には目を、油には油を!
中国人から学ぶ食べ合わせ

 上海のB級グルメの代表格「生煎(シェンジェン)」。鉄板で蒸し焼きにされたそれはカリッと香ばしく、食欲をそそる。
 しかし気になるのは、作る際に鉄板に並々とそそがれる油。さすがに見てみぬふりは難しい。「生煎は、まさに太るとされる脂質と炭水化物の結晶です。太りたい人には、イチオシですね(笑)」と、冗談交じりに笑えない一言。今回も、食べ合わせでどうにかしようと、聞いてみる。
 「実は、『ゴマ油』と一緒に食べるといいんです。逆効果のような気もしますが、ゴマ油には、動物性の油を消す作用があるんです」と、意外な答えが返ってきた。「あとはお酢。お酢には、身体を温めて代謝をアップさせる効能があります。お酢にゴマ油を少したらしたものにつけて食べるとさらに◎です」と、身近な食材のコラボを勧める。
 でも生煎は、朝の時間がない時に食べることも多いはず。「そんなときは、店で生煎と一緒に売っている豆乳が一番。豆乳の素である豆類には、大豆レシチンという成分が含まれていて、脂質を落としてくれる性質があるんです」と、すかさずコメント。また、プーアル茶も同様に脂肪を落とす働きがあるとか。
 「ダイエットとなると、日本人はカロリーや数値ばかりを気にしがちですが、中国の方は太らない食べ合わせをして自然と調整してますね。日本人に比べ食べ物の性質や効能をよく理解しているんでしょうね」と、大倉さんは指摘する。これから中華を食べる際は、周りで食べている中国人に目を向けて、どういう食べ合わせをしているか観察してみるのも面白いかもしれない。

~上海ジャピオン6月4日号より

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