上海人の給与相場は?
最低賃金は年々上昇
まずは予備知識として、上海市の最低賃金を知っておこう。
2010年7月現在の最低賃金は、月給1120元。
1993年にはわずか210元だったが、2000年に445元、
05年に690元と経済成長にともない年々上昇を続け、10年4月からこの金額に決められている。
ちなみに、中国国内各地の最低賃金で最も高いのが、この上海だ。
だが、これは日本でいう「最低時給」のようなもの。
一般的にはいくらぐらいもらっているのだろう。
中国人の給与相場に詳しい「インテリジェンス上海」の人事労務コンサル担当・杜文?さんに話を聞いた。
給料は「お尻」で決まる?
まずはブルーカラーの給料について。
「上海では、掃除や警備員、建築作業員などブルーカラーの人たちの月給が1120元~3000元ぐらい。
この人たちは基本的には高校を卒業してすぐ働いています」との答えが返ってきた。
一方、ホワイトカラー層はどうだろう。
「上海では、『お尻で給料が決まる』なんて言われているんです」
と、杜さんの口から何とも意味深な言葉が飛び出した。
「お尻というのは、座っている場所という意味です。
つまり、所属している会社によって、お給料が全然違うんですね」。
「中でもお給料が高いのは、電力や通信、銀行、それに石油などのエネルギー関係です。
大卒1年目でひと月あたり5000~6000元の収入がありますね。
日本人の感覚からしたらそれほどでもないかもしれませんが、
最低賃金の約5倍と考えると、その差がはっきり分かります」。
日本で言うなら、大卒1年目で年収1000万円、というような感覚なのかもしれない。
中国では共働きが一般的だが、それでも最低賃金同士の夫婦では、2人で2500元にも満たない。
「最低賃金では、日々の食事や生活費だけでギリギリだと思いますよ。
とはいえ、これからも経済発展にともない賃金は上がっていくと思います」と、杜さんは見解を示す。
では、続いてそんななかでもたくましく生きる、4人の上海人の給与明細をのぞいてみよう。
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やはり完全出来高制
上海市内を走るタクシー運転手・李さん(仮名)に話を聞いた。
「俺の給料? 大したことないよ」と言ってなかなか言いたがらない。
まずは勤務体系から聞いてみた。
「車は24時間交代で、仲間と2人で使っているんだ。
24時間のうち、何時間働くかは自由。俺はだいたい16時間ぐらい運転しているね」
「1日の売り上げは1000元ぐらいだから、15日間働くと1万5000元。
でも会社には毎月自動車代5000元を払わなきゃいけない。
それにガソリン代が1日約300元で、1カ月15日乗るから、4500元。
自動車代とガソリン代を差し引くと、1カ月の収入は5000元ってとこだな」。
李さんの奥さんはスーパーでレジ打ちの仕事をしており、その給料は1000元ちょっと。
2人合わせて6000元ぐらいにはなるという。
のしかかるローン
では、その5000元をどんな風に使っているのだろう。
「一番大変なのは、家のローン。毎月1400元で、全部で15年ローン。あと10年以上残っているよ」。
食費は毎月約1500元。
通信費用は携帯電話代150元、固定電話代80元、そしてインターネット代120元がかかる。
さらに電気代は80元、水道代は60元、ガス代は60元ぐらいだという。
あとは13歳になる息子の中学校の学費に毎月250元(年間3000元)を支払う。
そんな李さんの趣味はインターネットゲーム。
休みの日は1日中オンラインゲームで気分転換している。
「金のかかるような趣味はないね。せいぜい仲間と飲むぐらいだけど、毎月300~400元ぐらいだよ」。
最後に買いたいものを聞いてみた。
「マイカー1台買って、家族で旅行に行きたいねえ。そうだな、BMWなんかがいいな」。
家族思いの李さんは、そう言って笑った。
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中国らしい副収入が充実
市内の某コンビニで働く陳さん(仮名)の給与体系は、なかなか中国的だ。
コンビニから支給される給与は1カ月1130元だが、このほかに毎月1120元の副収入がある。
陳さんはもともと国有企業に勤めていたが、数年前に一時解雇(中国語で「下崗(シアガン)」という)された。
だが一時的な解雇という名目のため、
陳さんには会社から今でも年金や最低賃金の1120元が支払われているのだ。
陳さんの奥さん(50歳)は町内会の仕事で毎月1400元の収入があり、
さらにすでに年金も毎月1400元が支給されている。
こうした収入を合わせると、陳さん一家の収入は毎月5250元になるのだ。
3人家族の家賃73元
陳さん一家のひと月の支出はこうだ。
同済大学に通う娘のお小遣いが700元、電気・ガス・水道・電話代が240元、
一家3人の携帯電話代が200元、交通費が150元、食費1300元
(内訳は、肉・野菜・魚900元、牛乳150元、果物250元)、家賃73元となっている。
目を引くのは、何と言っても「家賃73元」。
陳さんは8年前に公営住宅の使用権を手に入れ、この価格で暮らすことができるという。
その分、毎月2000元を貯金に回している。
「うちの家庭は、上海ではほぼ中流か、やや下ぐらいでしょうね。でも満足してますよ、生活には」。
陳列棚を細かく整えながら、陳さんは言う。
「そりゃ、もうちょっと裕福だったら旅行にも行きたいな、とは思いますけどね。
雲南やチベット、西安にも行ってみたいなあ。海外旅行?
それは月収が1万元ぐらいないと、選択肢には入らないよ」。
中国の制度をフル活用しながら、陳さんはそれなりに満足した生活を送っていた。
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月収相当の携帯電話
ラーメン1杯10元程度の某ローカル食堂で働く楊さん(仮名)は、夫婦で店を開いて8年になる。
毎日約100人のお客さんが来て、売り上げは1日2000元。
毎日休むことなく店を開き、1カ月の売り上げは6万元になる。
だが、従業員の給料や、材料の仕入れ代金などを差し引くと、
楊さん夫婦の元に残るのは毎月4000元程度だ。
4000元ではなかなか生活も大変なのかと思いきや、
楊さんの手元にiPhoneが置かれ、品のいい指輪もはめている。
「iPhoneは4000元よ。指輪の値段?
アクセサリーの値段は私のプライバシーなんだから、教えられないわよ」。
きっと、お金では測れない大切な思い出でもあるのだろう。
ほぼゼロの食費と家賃
月給4000元でもiPhoneが買えるのは訳がある。
まず、食費がゼロ。
夫婦は朝昼晩すべての食事を、この食堂でしている。
さらに、家賃は「公房」と呼ばれる公営住宅に住んでいるため、毎月わずか140元。
エアコンをガンガンに付けているため電気代が300元とやや高額だが、水道代は100元程度。
家ではガスは使っていない。
「あとは旦那のタバコ代が300元と、中学生の娘の学費が毎月約800元(年間1万元)がかかるぐらいよ」。
だが、それだけは計算が合わない。
詳しく話を聞くと、
「84歳になる父親の家に、アイさん(お手伝いさん)を呼んであげてるの。それで毎月1800元かかっているわ」
という。そんな父親を見ているせいか、
「将来はお金を貯めて、サービスのいい老人ホームに入りたいわ。今、貯金は1万元ぐらいだけど、足りるかしら」
と、将来のささやかな夢を語った。
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妻の年金で一家養う
某オフィスビスの入り口で警備員をしている周さん(仮名)に給料を尋ねると、
「俺の給料は上海で一番安いんだ。最低賃金と同じだよ」と、やや自嘲気味な返事が返ってきた。
休みは月5回。日給45元という月給は、日本人からするとあまりにも安い。
だが、周さんの奥さんはすでに毎月2000元の年金を受け取っており、2人合わせると3120元になる。
「上海では女性は50歳から年金が受け取れるからね。女房のおかげで助かっているよ」と、奥さんをねぎらう。
月給の2割タバコ代に
周さんには最近大学を卒業した息子がいて、もうすぐ社会人になる。
息子が働き始めれば、家計ももう少し楽になりそうだ。
「息子の月給は3000元。いくら家に入れるかは、まだ決めてないけどね」。
使い道は、食費1500元、電気・ガス・水道代350元、タバコ200元、
お茶35元、住宅ローン120元、周さんのお小遣い350元となっている。
タバコは周さんが吸うためのもので、自身の月給の2割をタバコ代に費やしている計算だ。
家は20年前に1万元で購入し、毎月ローンを支払っているそうだ。
「当時は今より、家が買いやすかったんだ。貸家は良くないよ。
人の家に住んでいるみたいで、落ち着かないじゃない」。
中国人は、日本人以上にマイホーム志向なのだろう。
貯金も何に遣うかというと、「息子が将来結婚するときのためだよ。結婚するときには家を買ってやりたいんだ」。
安月給でも、子どもには辛い思いをさせたくない。
そんな親心を垣間見た。
~上海ジャピオン7月23日号より