中国現代作家を読む

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一番人気は〝推理〟小説

では、最初にマーケティング会社「マクロミルチャイナ」が、中国人100人を対象に行った、アンケート調査の結果を見てみよう。

まず前提として、「月に何冊本を読むか」のチェック。最も割合が大きいのは、全体の半数を占める「2~4冊」であった。そして、「1冊」の18・9%、「5~9冊」の13・2%と続く。何かと忙しい現代人の生活リズムから考えると、まずまずの読書量である。

また、気になる「好きなジャンル」の一番人気は、52・8%を占める「推理」であることが分かった。日本語に翻訳されている中国書籍といえば、純文学や歴史小説が多いため、この結果を意外に感じる人も多いのではないだろうか。さらに注目なのは、40・6%を占め、4位となった「ネット小説」。中国では、ネット小説からドラマ化、映画化され、大ヒットを飛ばす作品も少なくない。ネット小説の浸透ぶりを実感させる結果となった。

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幅広く支持される韓寒

では、実際に人気のある作家とは誰なのだろうか。今回、最も多く名前が挙がったのは、80年代生まれの「80後」を代表すると称される「韓寒」。高校生にして小説家デビューを果たし、処女作『三重門』は売上100万部のベストセラーとなった。今回のアンケートでは、30代女性を除く、すべての年代・性別においてランクインしており、幅広い層に受け入れられていることが分かる。

次点は、昨年ノーベル文学賞を受賞し、話題になった「莫言」。こちらは、30代男性と20代女性以外の年代・性別でランクイン。比較的高い年齢層に好まれているようだ。3番目に多かったのは、20代・40代女性からの圧倒的な支持を受ける「郭敬明」。乙女心をキュンとさせる青春物語を得意とし、女性に人気の作家である。

それでは、次ページからは、現代の中国人作家と作品について、ジャンル別で紹介してみよう。きっと興味を引かれる、秋の夜長のお伴にもピッタリな1冊が見つかるはずだ。

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1980年代に生まれ、新しい価値観やライフスタイルから、社会の注目を浴びる「80後」。彼らを代表する作家として、突出した人気の2人を紹介しよう。

反骨的な青春文学・韓寒

17歳でデビューすると、〝韓寒現象〟と呼ばれる大ブームを起こし、一躍話題の人となった韓寒。後に高校を中退し、プロのレーサーとなってからも定期的に作品を発表し続けている。ブログやインタビューでの発言が話題になることも多く、アメリカ『タイム』誌で、「2010年度・世界で最も影響力のある100人」にノミネートされた。

反骨的で、問題発言が注目されがちな彼だが、作品内では、淡々とした語り口で時代を切り取る。『三重門』は『上海ビート』という邦題で、日本でも出版。また、若者たちのアウトローな日々を描いた小説『一座城池』をもとにした同名映画が、9月18日(水)から中国全土で公開される。前評判では、ブラックな笑いたっぷりの青春コメディに仕上がったとのこと。中国語力に自信のない人は、先に映画を観てから小説に挑戦してみては。

詩的なライトノベル・郭敬明

かわいい笑顔に適度についた筋肉。アイドル顔負けのイケメンの彼こそが、中国作家長者番付で3度のトップに輝き、常に上位をキープする超売れっ子作家・郭敬明だ。前述の韓寒とは、何かと比較されがちだが、作風は全く異なる。彼の作品の特徴はというと、幻想的な比喩を多用し、登場人物たちの心情を細かに描き出す表現力。その絢爛な言葉が生み出す、ドラマチックな少女マンガ的世界は、10~20代の女性を筆頭に、熱狂的なファンを生み続けている。

彼の作品『非傷逆流成河』は題を『悲しみは逆流して河になる』として日本でも出版。また、本人が監督を務める映画『小時代』は、自身作の同名小説が原作だ。

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1980年代中頃から、伝統的なリアリズムの枠組みを壊し、新しい視点を持った実験的な小説が、次々と発表された。その作者らは〝先鋒派〟と呼ばれ、当時から現在に至るまで、中国内外において、高く評価されている。

不条理な世界に迷う・残雪

奇妙な状況下で、奇怪な人々が奇異な行動を取る。このような独特の文学スタイルを持ち、〝中国のカフカ〟と称される残雪。前衛的な作風はほかに類を見ず、中国国外での翻訳作品も数多い。最近はカフカやボルヘス、ダンテなど、欧米の文学作品の評論も精力的に行っている。

彼女の作品はまるで悪夢のようだ。世界は死や毒、血や虫で溢れ、さっきまであったものが今はもうない。多くの場合、登場人物すら何が起こっているのかわかっておらず、読者はこの不安や閉塞感に満ちた、不条理な展開に呆然とするほかない。彼女は作品内ではっきりとした答えを書かないため、ある人は作中に登場するものを何かの比喩ととって論理的な解釈をし、またある人は直観的に作品を理解するかもしれない。読む人によって形を変えつつも、精神の深淵へ何らかの影響を与える、そんな作品である。

人々のリアルな姿・余華

84年に作家デビュー。初期の作品は、まさに〝先鋒派〟らしい実験的な作風だったが、92年に『活着』を発表し、ベストセラーとなった頃から、一般市民のリアルな姿を、歴史背景を絡めつつ描くように。その描写は、人々の欲望や感情が時にグロテスクなほど誇張され、作品発表後は度々、傑作か駄作かを巡り大論争が起こる。

今年6月には、7年ぶりの長編『第七天』を発表したばかり。内容は、死んだ男が時空を移動しながら、様々な死者と対話を交わすというもの。早速、評価は真っ二つに分かれている。

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日本において、中国発の推理・ミステリー作品は翻訳数が少なく、作家もあまり知られていない。ここでは今注目の、魅惑的な謎を論理的に解体していく〝本格ミステリー〟と、重厚な社会派ミステリーの作家を紹介する。

本格推理×SF・寵物先生

中国台湾では、2009年より、中国語で書かれた本格ミステリー作品を対象とした「島田荘司推理小説賞」が開催されている。この、栄えある第1回目受賞作品が、寵物先生による『虚擬街頭漂流記』だ。かねてから日本文化に親しんでいた彼は、推理小説家・綾辻行人作『十角館の殺人』を読んだことをきっかけに、自身も創作活動を始めたという。

現在発表されているのは、同名で邦訳もされた、前述の長編1作と短編5作。大学で情報科学を学んだ経緯もあってか、バーチャル世界やロボットなどのSF的要素と推理要素を融合させた作風が持ち味だ。またトリックだけではなく、親子の情など〝泣き〟要素も強く、人間ドラマを著す手腕にも長けている。

社会派ミステリー・張平

張平は、中国国内で様々な文学賞を受賞した実力派作家。綿密な取材を重ね、地方幹部の腐敗など実話をもとに、デリケートな社会問題に鋭くメスを入れる。取材中に圧力をかけられたこともあるそうだが、自作の主人公のように骨太でパワフルに作品を発表し続けている。

実際の事件をもとにしているとは言っても、ルポルタージュ風にまとめたものではなく、章ごとに時制をシャッフルするなど、ストーリーへ引き込む構成を採り、一流のエンターテイメント作品に仕上げている。作中では暴力的で残酷な描写も多々あるが、解決に向けて命がけで奮闘する緊迫感や真相が徐々に明らかになるスリリングさで、ページをめくる手が止まらなくなるはずだ。

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~上海ジャピオン2013年9月13日号

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