日本で話題の〝涙活〟
最近、日本で「涙活(るいかつ)」という言葉が注目を集めている。これは、能動的に涙を流し心のデトックスを図る活動で、同じく話題となった「離婚式」のプランナー・寺井広樹氏の提唱によるものだ。人間は涙を流すと、交感神経から副交感神経へとスイッチが切り替わり、心身ともに緊張した状態からリラックスした状態になるのだという。そこで、泣ける映画や音楽を鑑賞して、涙を流しストレスを解消しようというのがこの活動の目的である。
氏は月に1度、参加者を募り、みんなで一緒に泣く、という交流会を開催している。残念ながら、異国に暮らす我々が参加することは難しいが、個人活動なら可能だ。「涙活」公式ウェブサイト(ruikatsu.com)によると、涙の量が多いほど心の状態が改善する度合いも大きいとのこと。となれば、じゃんじゃん泣きに泣いて、癒されてしまおうではないか。
上海人の〝涙〟傾向
では早速、泣けるコンテンツを紹介…する前に、気になる上海人の涙の傾向をチェックしてみよう。
まずは、「年に何回泣くか」という基本的な設問から。最多は、回答率50%の「1~5回」。そして注目なのが、7%の「0回」。この結果から、93%の人が年に1度は涙を流しているということがわかる。また、「最後に泣いた時期」に対する回答は、37%の「1年以内」と34%の「1カ月以内」がほぼ同数でランクイン。
次に泣く理由を見ていくと、興味深いことに、女性の多くが映画や本への感情移入や、仕事上のストレスを理由に挙げたのに対し、男性は家族や恋愛に関する事柄とする人が多かった。また、男性は「プロポーズの時に感極まって」や「彼女とケンカした後、初恋の人を想って」など、繊細さを感じさせる回答が目立つが、同じ恋愛関係でも、女性は「恋人or夫とのケンカ」以外を挙げた人は皆無と少々現実的。男女の差が浮き彫りとなった。
最後は、「泣く行為は恥ずかしいか」の設問で〆としよう。「はい」が55%、「いいえ」が45%と大きな差はないが、男女の内訳を見ると、女性は1対1だったのに比べ、男性は3対2で恥ずかしく感じる人が多いという結果に。その理由も、「大人の男は人前で泣けない」や「軟弱そうに見える」といった、男のメンツへのこだわりが感じられる。反対に恥ずかしくない理由としては、男女ともに「自然なことだから」と、素直な感情を大切にする回答が大半を占めた。
では次ページから、上海人オススメの泣けるコンテンツを紹介していく。ぜひとも活用し、心のデトックスを図ってほしい。
母子の家族愛に涙
まずは、上海人が選んだ「泣ける映画」から見ていこう。アンケートの結果、堂々の1位に輝いたのは、1988年に制作された『媽媽再愛我一次』。25年前の映画だが、〝母子の愛〟という普遍的なテーマで、あざといほどに泣きツボを押さえている。母子の思い出の歌が流れるエンディングは、ベタすぎて思わず笑いの衝動すら起こるのだが、最終的には、やはり泣かされてしまう。制作者の思惑通り泣くのが悔しくなる、〝ザ・泣き映画〟だ。
もう一方の『暖春』では、日本のTVドラマ界で薄幸の少女を代表する『おしん』のように健気な少女が登場し、鑑賞者を涙の嵐に巻き込む。その力は、公開時に中国のメディアで「大催涙弾」と称されたほど。今日は絶対に泣くぞ、という日はこれで決まりだ。そのほか、中国作品以外では、『タイタニック』や『忠犬ハチ公』が票を集めた。
韓国ドラマは泣きの鉄板
ドラマ部門で1位を獲ったのは、日本の奥様方をメロメロにし、社会現象まで引き起こした韓国ドラマ『四季シリーズ』。『秋の童話』、『冬のソナタ』、『春のワルツ』、『夏の香り』とそれぞれ、清純かつ美しい映像で、波乱万丈な運命の恋を描く。
そして『小爸爸』は、テレビ放映後3日間で、ネットアクセスが1億回に達したヒット作。若くして突然6歳の子どもの父親となった主人公の成長を、コミカルなタッチで描いた同作。子どもと、まだ幼稚さの抜けない父親が騒動を起こしながらも、少しずつ親子らしくなっていく姿に、ついホロッとくること間違いなし。また父親を演じる文章が、同じく主演を務める『裸婚時代』も評判。お金のない若いカップルが愛情だけを頼りに結婚し、様々な現実問題に直面し、別れを選ぶ…。夫の「愛が現実に負けた」の言葉が切ない。
清朝の皇子様との悲恋
同部門で1位の座についたのは、桐華の『歩歩惊心』。同作はドラマ化され、大人気となった。ヒロインが現代から清朝へと飛んでしまう、いわゆるタイムスリップ物で、彼女が皇子たちの関心を一身に受けモテモテに…というのはお約束。中でも第4皇子との恋は、様々な困難が立ちはだかり、読者をハラハラさせる。絢爛豪華な恋物語にハマれば、ピュアな涙が流れ出す。
ピックアップの『穆斯林的葬礼』は、1940年代と60年代を舞台に、回族の一家の歴史を追う。750ページもある大作で、重厚な大河ドラマを堪能できる。回族文化を背景に、一家の歴史を読む…人の一生や、文化のつながりの深さにジーンとくるだろう。そのほか、母親が亡くなるまでの約80日間を綴った、張潔の『世界上最疼我的那個人去了』のほか、匪我思存の『来不及説我愛你』などネット小説も多く推薦され、その浸透ぶりが垣間見られた。
中国マンガを侮るなかれ
マンガ部門1位は、日本で圧倒的な知名度を誇る、井上雄彦の『スラムダンク』。アニメ版は中国でも放映され、現在20~30代の若者にとって馴染み深い作品のひとつ。スポーツに懸ける青春が胸を熱くするのは、どこの国でも同じ。納得の1位だ。
マンガは日本の専売特許ではない。郭敬明原作の『幻城』の作画は、中国香港の漫画家・司徒劍僑。美麗かつ迫力ある画風で描かれた、ドラマチックなファンタジー活劇だ。主人公・卡索の弟であり、最終的に兄と戦うことになる櫻空釈が、その悲劇的な運命から人気が高い。読めば彼の生き様に涙腺決壊必至だ。ほかにランクインした作品は日本の作者によるものが多いものの、明暁溪の『泡沫之夏』や、幾米の『向左走、向右走』など、著名な中国作品も挙げられた。
恋の痛みは音楽で癒す
今回1位の『十年』では、中国香港の売れっ子作詞家・林夕が、諦感を伴った大人の恋愛の終焉を綴る。これを、実力派歌手として知られるイーソン・チャン(陳奕迅)が、表現力豊かな歌声でやさしく歌い上げる。失恋したての人が聞けば、苦くも甘い涙がこぼれることだろう。
このほか、多くの人から支持を受けたのが、「阿妹」の愛称でお馴染み、張恵妹の『聴海』。これは、美しいメロディに、恋に悩む女性の心情を乗せたバラードだ。歌の始まりは語りかけるように、後半のサビでは、切ない気持ちを波の音色になぞらえ、叫ぶように情熱的な声を振り絞る。恋に悩む女性なら、共感のあまり号泣してしまうかもしれない。そのほか音楽部門では、梁静茹の『接受』や五月天の『突然好想你』など、恋心を歌った楽曲が多く挙げられた。恋で傷ついた痛みも、涙を流して癒そう。
やはり泣ける、ベタな展開
いつの世も人の心を揺り動かす歌。これに加え、さらなるドラマチックな泣き世界を創り出すのが、プロモーション・ビデオ=PVだ。今回1位に輝いたのは、光良の『童話』。ピアニストの彼氏と、彼を応援する彼女。しかし、彼女は病に倒れ…と、ベタベタと言っていいほどの展開に、カラオケで歌うと、全員がモニターに釘付けとなってしまう曲として知られるそうだ。
そして映像制作に作曲、演奏など、複合的な創作活動を行うユニット・筷子兄弟。彼らのショートフィルム作品『父親(父女編)』からシーンを編纂したPV『父親』が、泣けると評判だ。父親が四苦八苦しつつ赤ん坊にミルクをやる様子、幼い娘をサイドカーに乗せて走るまなざし…親子物に弱い人は、事前にティッシュのご用意を。これら以外は、阿桑の『葉子』、張信哲の『白月光』などがランクインした。
~上海ジャピオン2013年10月18日号