四川人不怕辣、貴州人辣不怕、湖南人怕不辣
右の言葉を聞いたことがあるだろうか? 中国の激辛料理を食べる地域の人たちを評した諺だ。これは「四川人は辛くても恐れない、貴州人は辛いものを恐れない、湖南人は辛くないものを恐れる」という意味。言葉の感じからすると湖南料理が最も辛そうな気がするけど、一体どこの地域が一番辛いのか?
今回はそんな疑問を検証すべく、中国の大型口コミグルメサイト「大衆点評網」で人気を集める四川省、貴州省、湖南省の各料理店を訪れ、勝手に辛さ比べをしてみた!
花椒で舌ビリビリ、四川
四川料理の代表店として訪ねたのは、〝行列のできる〟四川料理店「辛香匯」。「麻辣」の決め手となるトウガラシと花椒は本場の味を再現するため、できる限り四川省のものを取り寄せて使っていると言う。
早速、「水煮鯰魚」という鍋の表面がトウガラシと花椒に埋め尽くされた人気料理にチャレンジ。まあまあ辛いが、食べられないほどではない。…が、その程よい辛さに安心し調子に乗って食べ進めると、くるりと丸まったナマズの身の内側に潜んだ花椒を噛んでしまい万事休す!唇と舌がビリビリ、唾液がダダ漏れに。これが四川省「麻辣」の真髄だ。同店の総料理長曰く、このシビれが堪らないんだとか。
同氏に「中国一の激辛は四川料理?」と聞いてみたところ「それはやっぱり湖南料理かな」とあっさり白旗。湖南料理への期待が高まる!?
後からじわじわ来る、貴州
本命の湖南料理との対決を前に「酸辣」で有名な貴州料理に挑む。貴州省から呼び寄せた料理人たちが腕を振るう店「黔香閣」に足を運んでみた。
純粋に「酸辣」を味わうなら「山椒鳳爪(鶏足のトウガラシ漬け)」や「酸魚湯(白身魚の酸っぱ辛いスープ)」を注文するのがオススメだが、今回はシェフ推薦、貴州名物の「功夫鳳掌」にトライ。皿には鶏足の皮がこんもり…これを後味がほんのり酸っぱい朱色のトウガラシダレに付けて食べる。最初は「少し辛いかな」程度だったが、このちょっとの辛味が静かに舌の上に居座り、ボディーブローのように後から効いてくる。
ただ個人的に〝激辛〟というには物足りなかったので、メニューの中でも数少ないトウガラシマーク3つの貴州風「辣子鶏(鶏肉のトウガラシ・コショウ炒め)」を頼むも満足のいく辛さは得られず。上海人の口に合うよう辛さを抑えているのかも。
一口目でギブアップ、湖南
そしてラストを飾るのは、四川料理店の総料理長が白旗を揚げた湖南料理。湖南料理店代表として選んだ店は、1996年にオープン、上海における湖南料理ブームの火付け役ともなった「滴水洞」だ。こちらも料理人はみな湖南省から招いた本場の味を知る人たち。辛酸っぱい豆とひき肉を炒めた「酸豆炒肉末」や、スパイスたっぷりのスペアリブ「孜然排骨」は、日本人の間でも人気が高い。
激辛を求めて「とにかく辛いのはどれ?」とスタッフに聞き、薦めてくれた「小炒黒山羊」にチャレンジ。湖南出身のスタッフが「これはトウガラシたっぷりよ」と話す激辛料理だ。少しつまんでみると、一口目からすこぶる辛い。それもそのはず! 薄く切った肉に、唐辛子の種がプチプチと付きまくりだ。
経験上、〝激辛〟といわれる料理といえども「一口目は辛いけど、食べられないことはない」ということが多く、大抵数口食べた頃に辛さが本領発揮、ギブアップとなる。だが、この料理に関しては一口目から、いきなり辛い、辛い、から~い、限界に達した。三口食べないうちに胃が熱くなり、口周りと舌はヒリヒリ。堪らず「辛さに耐えられない時はどうすれば…」と助けを求めると、「そのヒリヒリが気持ちいい」と答えになってない!湖南人恐るべし。ミネラルウォーターを口に含んだままじっと耐え、舌の上から辛さを拭おうとしたが効果はなく、唇をビリビリさせたまま店を後にした。
「就是辣!」シンプルが一番
冒頭の「四川人不怕辣~」の諺を検証した結果、個人的にはシンプルに「辣」を追求した湖南料理に軍配をあげたい。「滴水洞」のスタッフに「中国一の激辛料理は?」と尋ねると「そりゃ湖南料理でしょ」と即答。そして「四川は〝麻辣〟、貴州は〝酸辣〟、では湖南は〝何辣〟?」と聞くと「就是辣(取り敢えず辛い)!」と笑いながら答えてくれた。
刺激が強い料理に要注意
食事中の人は読み飛ばしてほしい。案の定というか、スパイシーな料理を食べ過ぎた結果、お腹はゆるゆるに。口周りと舌のヒリヒリが、お尻に移動した感じ。日本人の胃腸は四川、貴州、湖南の人たちのようにトウガラシの刺激に強くないので〝激辛〟を食べる際はほどほどに。
~上海ジャピオン2017年12月8日発行号