日本では、東京五輪をにらんで注目されるナイトタイムエコノミー。この単語を聞き慣れない人もいるだろうが、なぜ注目されているのか? また上海市では、この分野をどのように捉えているのか、紐解いていこう。
注目され始めた夜間経済
官民が協力して活性化促す
上海市の軌道交通は日本・東京に比べ、終電が早くてその分市民の夜も早い、と考えている日本人は少なくないはず。しかしよく見てみると、市内各地では夜間経済をにらんだ様々な取り組みが行われるなど、市民の夜の活動時間が伸びている。ここで使われるのが「ナイトタイムエコノミー」(中国語で「夜経済」or「夜間経済」)というワードだ。その名の通り、夜間における経済活動を表しているのだが、市政府ではこの夜間を〝19時~翌6時〟としている。
イギリスでは、2017年の夜間経済におけるGDPが全体の6%を占め、第五産業の位置付けになりつつある。また30年までには、夜間経済規模を年300億ポンド(約4兆2000億円)に引き上げる計画だという。
21~23時にネットで買い物
デリバリー分野も好調
上海市では、この考え方に注目し始めたのがここ1~2年ということもあり、夜間経済におけるGDPなど具体的数値はまとめられていない。そのため各社が発表している〝夜経済〟に関わりがある数字を見ていこう。上海市交通委員会の報告によると、平日の19時から終電までの軌道交通乗客数はのべ32万3000人に上り、6年前に比べると69・4%増加。また上海の軌道交通では、2号線「虹橋2号航站楼」駅発「広蘭路」駅行きの終電を翌0時に延長するなど、深夜でも軌道交通で帰宅しやすくしている。
さらにデリバリーサイト「餓了麼」や、ショッピングサイト「淘宝」・「天猫」などを運営している「阿里巴巴集団(アリババ・グループ)」が7月に発表した「阿里巴巴〝夜経済〟報告」を見ると、19時~21時が舞台鑑賞や映画館での映画鑑賞、21時~23時の間が、家でドラマを観る人の最も多いピークタイムであることがわかる。デリバリーアプリ「美団外売」も、市では毎日18時~翌6時のオーダー数が全体の40%ほどを占めるとのデータを発表している。ネットサイト「京東」の統計では、19年上半期における取引額のピークが21時~23時で、中でも上海市が全国でトップの取引額を記録。
このように、上海市の深夜における経済活動が活況であることが窺える。それでは次ページから、20時~26時における〝夜上海〟の様子を見ていこう。
20時・豫園
人気観光地で新たな試み
上海の人気観光地「豫園」。飲食店や土産物屋が軒を連ねるエリア「城隍廟」では「豫園夜市」と称した、夜間経済をにらんだイベントを9月からスタート。微信ミニプログラム「豫園有礼」を開設して、敷地内の夜市オススメ情報などを提供したり、エリア中央の九曲橋で18時、19時、20時の計3回、1回10分ほどの3Dマッピングを放映しりと、様々な取り組みを行っている。
「豫園」は通常、春節や国慶節休暇を除いては、人は多からず少なからずといった印象。しかし国慶節明けに取材班が足を運んだ時は、夜でも結構人が多い印象を受けた。
なお廟の「豫園」(入場料40元/人、8時45分~16時45分)は、10月30日(水)まで修繕のため入場できないため気を付けて。
22時・大沽路
深夜3時まで営業する店も
かつてはバーストリート・永康路や、ザリガニストリート・寿寧路など、夜遅くまで賑わう通りが多かったが、営業許可証や違法な増築などの問題で取り締まりが行われ、多くの店が閉店、人々の足も遠のいていった。現在は、大沽路や東湖路、新天地エリアなどが夜の人気スポットとして賑わっている印象を受ける。
大沽路に足を運んで店内を覗くと、多くの人が酒を飲みながら友人との会話を楽しんだり、スポーツ観戦に熱狂していたりしていた。この通りには、バーレストランが5~6軒、居酒屋や深夜3時までオープンの海鮮料理屋などが並ぶ。黒暗料理を販売する人も見なくなり、昔のように路面でガヤガヤ飲む姿は見掛けなくなったが、今でもこういった場所で夜遅くまで飲む人は多い。
24時:映画館
残業後にゆっくり映画鑑賞
年末を約2カ月後に控え、残業が増えるビジネスパーソンも多いはず。観たい映画があるけど時間がない…そんな人にオススメなのが、映画館「国泰電影院」や「大光明電影院」が行う24時間営業だ。この〝24時間〟は、コンビニのように24時間営業を行うのではなく、残業明けのビジネスパーソンが24時以降でも映画鑑賞ができるという意味。つまりスーパーレイトショーで、〝加班族(残業する人々)〟も夜間経済に取り込もうということだ。
またスーパーレイトショーに合わせ「国泰映画館」はカフェスペース「MXPRESSO」を開放。ここはイベントスペースも兼ね、作家がセミナーなどを実施。映画鑑賞の場を提供するだけでなく、イベントも取り入れ、他所との差別化を図っている。
26時・デリバリー
深夜にデリバリーや買い物
深夜、自宅で仕事をこなしたり、はたまた動画・テレビ鑑賞をしたりで、小腹が空いてきた時、デリバリーでフライドチキンや串焼きを注文したことがある人は多いだろう。
デリバリーサイト「餓了麼」によると、上海市の上半期で、11時~翌1時における居住区1カ所当たりの配達件数が700件を超えたところもあるという。注文する料理は葱油餅が最多で、上海料理が続く。また「美団」の統計上では、18時~翌6時の取引額が、1日における取引額の40%前後を占めるなど夜宵(夜食)がデリバリーにおいて主要な取引になっている。ほかネットショップ「淘宝」や「天猫」では、21時~22時における購入が1日全体の36%を超えているデータもある。
26時でも料理の注文ができる上海のデリバリー業界は、今後も伸びていくだろう。
~上海ジャピオン2019年10月25日発行号