簡体字の成り立ち

簡体字の歴史はまだ半世紀

簡体字が中国の正字として正式に採用されたのは今から56年前、前回の東京オリンピックが開催された1964年。簡体字を一覧にした『簡化字総表』がその始まりだ。その後86年に修正版『簡化字総表』が発表され、同表に収められた簡体字は2274文字となった。

この文字改革は国務院(中央政府)指導のもと、国家語言文字工作委員会が実質的な作業を進めた。簡体字政策は、画数が多く複雑な繁体字を簡略化することで、国民全体の識字率を高めることをはじめ、今まで異字体として混同されていた文字を1つに統一し、増えすぎた漢字を整理するという役割もあったといわれている。

確かに漢字文化が伝わった日本では斉、斎、齊、齋と、同じ「サイ藤」さんでも漢字が異なる例が少なくない。日本では異なる漢字をそのままにしているが、中国では「齐」に統一したというわけ。また繁体字の「廣」と日本語漢字の「広」など、日本語漢字が簡体字とも繁体字とも違う場合があるが、これは日本版簡化字総表といえる「常用漢字表」で、「廣」は今後「広」で表すことを決めたため。また「峠」や「畑」をはじめ、中国にはない「国字」が生まれたように、文字というのは地域や時代によって変化するものなのだ。

なお中国人が日本の役所に結婚届などの公的文書を提出する場合、日本語漢字すなわち日本の正字で名前を明記する必要がある。そのため、簡体字から日本語漢字に変換する過程でトラブルが起こることがある。逆に日本人が中国で公的文書を提出する際は、ほかの外国人同様パスポートに表記された英語名が使われる。

複雑な繁体字を〝簡〟単に

では、どのように繁体字から簡体字に替えられていったのか実際に見ていく。簡体字にしていく過程にはいくつかルールがあり、一番多いのが草書体の楷書化というもの。これは「國」が「国」に、「為」が「为」になったように、草書、すなわち筆書きのように文字を崩して書いていたものをそのまま正字として形を統一し、使うというもの。漢字を崩して書いていたのは日本でも見られる行為で、高齢者の人で「間」を簡体字の「间」に近い形で書くケースがある。また漢字全体ではなく、一部を簡略したものが「讠」(言)や「饣」(食)の偏が付く漢字で、「说」(説)や「饮」(飲)がそれに当てはまる。

次ページから、より具体的に簡体字化ルールを説明していこう。

省略や代替で簡体字を構成

簡体字の中でも、我々日本人が比較的わかりやすいものが「见」(見)や「车」(車)といった、日本語漢字とほぼ同じ形をしたもの。これらは、もともと草書体(筆書きのように崩して書く文字)として中国で昔から使われていたものを一般化したのだ。元の形を残しつつ画数を減らしている。また「难」(難)や「风」(風)も比較的わかりやすいが、漢字の一部が「ヌ」や「メ」に代替された理由はなく、元・明代以降に用いられていたものを採用した。

「园」(園)や「态」(態)は、画数が多く覚えづらい漢字の一部分を、同音の漢字(「园」は元、「态」は太)に代替することで、簡略化している。また似た字が複数あるものを1つに統一したのが「单」や「钟」だ。「钟」は「鐘」と、中国の姓「鍾」をまとめたもので、今回のコロナ騒動で有名な医師・钟南山は、日本では鍾南山と表記する。

原型をとどめない簡体字

先ほど見た簡体字は、繁体字の原型をとどめていて、且つ日本語漢字に似ているため、日本人ならわかりやすかった。一方で厄介なのが〝同音代替による取捨〟というルールで生まれた簡体字。これは、元々別の漢字・意味だったものを、音が同じという理由で統一したもので、例えば穀物を中国語で「谷物」と書くように「谷」が「谷」と「穀」を兼ねるようになった。

また繁体字を簡単にしすぎてしまったものがある。「郷」の左部分だけを残した「乡」や「児」の下部分だけの「儿」がその例で、元の繁体字の半分以上が省略された。そして一番難解なのが、繁体字の原型を全くとどめない簡体字だろう。「惊」は繁体字及び日本語漢字で「驚」と書くが、これはまず〝敬〟の部分を同じ音である〝京〟に代替し、さらに残りの〝馬〟を取って代わりに「忄」(りっしんべん)を付けている。

パソコンで打てない簡体字

最後にコンピューターの登場によって、パソコン上で入力できない簡体字、また簡体字の登場で地名自体が変わってしまったものなどを紹介する。

陜西省西安市で有名なビャンビャン(biangbiang)麺。このビャンという簡体字、画数がなんと56画もあるのだが、そのためか全世界共通のコンピューター上文字規格に登録されず、今までは入力することができなかった。しかし今年3月に発表にされたユニコードバージョン13・0で、晴れて登録され、パソコン上で表示できるようになったのだ。ほか簡体字政策の過程で、中国大陸では使われなくなってしまった繁体字や異字体があり、その漢字を使っていた地方では地名を変えるという事態にまで波及した。

~上海ジャピオン2020年4月17日発行号

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