三伏は羊肉

日本人にとっては、火鍋などで冬に食べるイメージが強い羊肉。実は中国でも、地方によって冬に食べる派と、夏に食べる派に分かれるという。最初に、夏に羊を食べるという風習の始まりとメリットを紹介しよう。

冬に食べるか、夏に食べるか

中国各地に伝わる知恵

毎年7月中旬から始まり、8月中旬に終わる、一年で最も暑いとされる時期〝三伏(さんぷく)〟。中国の中部地方では、この時期に締めた羊肉を食べることを「伏羊(fu2 yang2)」と呼び、夏バテを防ぎ、スタミナを付ける習わしとして大切にしてきた。考え方としては〝熱を以て熱を制す〟…つまり、身体を温め、血を補う効果があるとされる羊肉を食べることで発汗を促し、冬・春で身体に溜まった悪い湿気を取り除くというもの。日本でも、夏に熱い茶を飲み、汗を出して健康に過ごす、という習慣があるが、似たような考え方だ。

この習慣は今をさかのぼること4400年ほど前、江蘇省徐州市あたりで始まったとされている。古来、北の方では遊牧民が多く、南の方では農耕が盛んだった中国。北の人々は一年を通して羊を食べていたが、南の人たちにとって羊は希少で、冬に身体を温めるために、大事に食べるものであった。この北の暮らしと南の暮らしがちょうど交わったのが江蘇省徐州市あたりで、夏に羊を食べるメリットが徐々に農民にも受け入れられていき、「伏羊」として定着したと考えられている。その後この文化は江蘇省や浙江省、安徽省あたりにまで伝播した。

羊料理が並ぶ〝伏羊フェス〟

上海庄行でもスタート

さて現代では三伏に入ると、各地で羊肉を食べるお祭り「伏羊節」が盛大に開かれる。先の江蘇省徐州市では7月11日(日)~8月10日(火)まで、「第18回中国彭城伏羊節」を開催。「彭城伏羊一椀湯、不用神医開薬方(徐州の呼称・彭城で夏に羊のスープを一杯飲めば、どんなすごい医者の薬もいらない)」を合言葉に、あらゆる羊料理が広大な広場に揃う壮大な祭りだ。

上海市でも奉賢区の庄行鎮で7月9日(金)~8月22日(日)まで、毎年恒例の「上海庄行伏羊節」が催される。庄行鎮における伏羊の歴史も600年と古く、こちらではアルコール度数が高い焼酎と、庄行特産のナシを合わせていただくのが特徴だ。

私たちもこの古来の知恵に従い、夏は羊肉をガッツリ食べてみよう! 次ページからは、羊肉食べ方や、夏にピッタリの料理を紹介する。

部位によって食感が様変わり

日本ではまだ珍しい羊肉も、中国では牛肉や鶏肉と並ぶとってもポピュラーな肉。頭から蹄まで、丸ごと一頭余すことなく食用として使われている。

スーパーでよく見掛けるのは、➀の肩や②の肋骨部だろう。➀は脂肪が多く、羊独特の臭みが出やすいところ。ここは火鍋の具材としておなじみの、1枚1枚がクルンと巻かれた薄切りラム肉「羊肉巻」としてよく食べられる。白い油をサッとスープにくぐらせ、タレに付けて食べると、口に広がる羊肉の風味と柔らかな食感が心地よい。②の肋骨部は羊肉の中でも最も上質の肉が取れ、高級料理店でもよく使われる部位だ。ほどよい柔らかさと弾力を持つ肉をこんがり焼き、ソースやクミンを掛けていただく「羊排(ラムチョップ)」は、家庭の食卓にも度々登場する人気メニュー。

肉はおしりに行くほど硬く引き締まり、③のモモ肉は臭みが少なく、筋肉質で歯ごたえがある食感を楽しめる。羊肉の串焼き「羊肉串」はこの部位を焼いたものが多い。

玄人向けのホルモン系も

ほか、中国でよく食べられるのは首や前脚部分。首の肉は煮込みやスープの具として、前脚部分は豪快な骨付き肉として調理。どちらも油がギトギトとして、やや臭みが強いが、クミンなどの調味料とともにいただけば精が付くスタミナ満点料理だ。さらに羊料理専門店に行けば、レバーやミノなどのホルモンから、目、脳、果ては頭をまるっと使ったスープまでが揃う。ホルモンは肉よりもさらに臭みが強いので玄人向けだが、キツイ酒とともにいただくのがツウなんだとか。

とはいえ、夏にはサッパリとした羊料理をいただきたいもの。次ページでは夏にオススメの料理を紹介しよう。

秘伝の調理を味わおう

うだるような暑さが続く三伏。炎天下で羊肉串にかぶりつくのもいいが、そんなに元気がない時は、サッパリとした料理で滋養を付けたいもの。夏にピッタリ、臭いも油も控えめな羊料理2品を紹介しよう。

白い切り身が美しい「白切羊肉」は、冷めた状態でいただく肉料理。火鍋のタレにも似た特製ダレに付けて口に運べば、羊肉の凝縮された旨味が口いっぱいに広がる。これは羊の肋骨部や脚の肉を、様々な調味料と一緒に大鍋で煮込んで作るもので、一見作り方はカンタンだが、煮る時間、スープや調味料の調合、また煮込む回数などはそれぞれの地方や店に代々伝わる技がある。

上海市でも宝山区や、真如エリア、庄行エリアなどそれぞれに調理法や肉の切り方が残されていて、一部は上海市の非物質文化財に指定されている貴重なもの。ほとんどの店で500㌘~販売しているので、近くの羊肉専門店でオーダー、テイクアウトして、家族みんなで伝統の味を楽しんではいかが?

栄養満点スープで夏バテ予防

一方の羊を煮込んで作るスープ「羊湯」は、三伏で食べる羊料理として最初に挙げられる、最もポピュラーなメニューだ。羊の骨からしっかりダシを取った白いスープに、羊肉の薄切りや煮込み、ホルモンを入れていただく。匂い控えめ、コクのあるスープは、そのまま飲んでもよし、麺を入れて主食として食べてもよし。

こちらは羊肉専門店はもちろんのこと、市内各所にある「蘭州拉面」や「牛肉面」などの牛肉麺料理店、新疆料理系の羊の串焼き店、北京火鍋店ならまず注文できるので、ちょっと滋養を付けたいな、という時に気軽に飲んでみて。

60年続く羊料理の名店へ

最後は羊肉料理の名店で、羊ざんまいといこう。軌道交通15号線「銅川路」駅から徒歩10分、「真如寺」南門近くにある羊専門料理店「真如羊肉館」は、1958年から続く名店。かつてこのあたりで暮らした農民たちは、朝3時間から茶館で茶を飲み、4時半から羊肉と白酒、羊スープの麺を食べてから畑仕事に駆り出ていたという。

同店の涼しげな瓦屋根が、水郷だった真如鎮の面影を残している。店内左側には羊肉を切る調理場とレジが、右側にはテーブル席が並び、先にこのレジで料理を注文・支払いを済ませ、席に付くスタイルだ。同店名物「白切羊肉」(108元/500㌘)をオーダーする場合は、調理場に声を掛けて肉を切り分けてもらい、その重さを測ってから清算する。

メニューを見上げると、羊、羊、羊…と圧巻の羊料理揃い。羊肉とピーマンの炒め物「青椒羊肉絲」(36元)などといった定番メニューから、蹄、耳、目玉、脳みそまで…。ここは定番の「原汁羊湯面」(6元)と、チャレンジメニューの羊ホルモン炒め「大蒜羊雑」(32元)をオーダー。

麺+炒め物が定番

しばらくして運ばれてきた「原汁羊湯面」は、白濁したスープがまろやかなコクがあり、ホッとする素朴な味。そしてホルモン炒めは…う~ん、臭い! レバーやハツ、ミノをニンニクの芽と炒めた料理は、口に入れた瞬間、羊独特の臭みがムワッと広がる。ニンニクと一緒に食べると臭いが緩和され、やや食べやすくなる。

店内は地元の人々で埋まり、タオルで頭を拭きふき、料理を楽しんでいる。食後は身体が内側がポカポカと温まり、汗がじんわり。いい汗かいたかな? と思う昼下がりであった。

~上海ジャピオン2021年7月16日号

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