苦境の外国人向け旅行社
みなさんは、上海市内観光ツアーと聞いて、どんなコースが頭に浮かぶだろう? 豫園へ行き、「南翔饅頭店」の小籠包を頬張り、新天地や田子坊でショッピング。外灘クルージングを楽しんだ後は、東方明珠塔とSWFC(上海環球金融中心)から夜景を見渡す。定番のコースと言うと、こんなところだろうが、長期滞在している人なら、すでに何度も訪れお腹いっぱいかもしれない。そんな人にオススメしたいのが、今回紹介するユニークツアーだ。
しかしまず、ツアーを紹介する前に、ここ数年における、市の旅行業の動向について軽く触れておこう。統計によると、市を訪れた外国人旅行者の数は、2012年末時点で633万300人、13年は597万5900人と、減少傾向にある。しかしこれに対し、市内の旅行社の数は、12年末で1183社、13年末には1302社と増加。外国人をターゲットに絞った旅行社にとっては、厳しい状況が続く。そんな中、独創的なツアーを多数企画し、開拓を試みる旅行社もある。今回は、そんな会社のひとつ「NEWMAN TOURS」代表、ダニエルさんにお話を伺った。
面白ツアーで新規開拓
上海、北京、西安にオフィスを構える「NEWMAN TOURS」は、今月でちょうど創業4周年を迎えた。英国ケンブリッジ大学で中国史を学んだというダニエルさん。中国を旅行した際、観光地の案内板の情報量の少なさが不満だったことや、英語で微妙なニュアンスを伝えられる、プロのガイドの必要性を強く意識したことから、英語を母国語に持つガイドをそろえた会社を設立したという。
ダニエルさんは、自らを「大きくなった子ども」と称するアイディアマン。ツアー内容も、おもちゃを使ったサプライズや小ネタをたくさん仕込み、ガイドを務める時は役者のように声色を変え、ユーモアたっぷりに案内する。また、ツアーのテーマを決めたら、文献はもちろん、現地の人への聞き込みなど、徹底的に調べ尽くす。そうやって、「カンフーツアー」、「上海未来ツアー」など独創的なツアーが生み出され、各メディアから引っ張りだこの状態にまでなった。
現在、同社には6人の欧米人ガイドが所属し、基本的に英語専門のツアーを実施している。今後の展開としては、多言語のツアーや中国国外での企業展開も構想。何と、日本語ツアーの企画も立ち上がりつつあるとか。それを待ちきれない取材班が早速体験してきた! これに他社のユニークツアーも併せて、次ページから紹介していく。
「NEWMAN TOURS」代表、Daniel NEWMANさん
明日からカジノで仕事?
某月某日、あいにくの曇り空の下、取材班は、軌道交通1号線「常熟路」駅の3番出口にてWMAN TOURS」社企画の中でも、1、2位を争う人気の「ギャングスターツアー」に参加する。一体どんな冒険が…と、ドキドキしながら待っていると、「Hey!」という気さくなかけ声が。振り向くと、そこには黒いジャケット&ハットに赤いサングラスをかけた、まさにイメージままの〝ギャングスター〟な男性!? そう、彼こそが「NEWMAN TOURS」社の代表、ダニエルさんだ(写真①)。
軽く挨拶を交わした後、ダニエルさんは急に声のトーンを落とし、「ウチの組に入りたいというのはお前らか。早速明日からカジノで働いてもらうが、まずは街を案内してやろう」と凄んできた。どうも、我々は19世紀上海のギャング入団希望者という設定らしい。英語のアクセントも、治安の悪い東ロンドンの下町風「コックニー」に変えるというなりきりっぷり。取材班もやくざになったつもりで「お願いしやっす!」と叫ぶのだった。
ギャングの死に様を実演
ツアーは、「常熟路」駅から淮海中路を東に進んでいく。目的地へ向かう道すがら、ダニエルさん、いや、我らが〝アニキ〟が当時の闇社会の状況についてレクチャーしてくれた(写真③)。それによると、当時、ギャングの主な資金源はドラッグで、中国人ボスの裏にはヨーロッパの国々、特にロシアの金持ちたちが絡んでいたらしい。そのまま、ドラッグをいかにして中国へ持ち込むかなどを教わりつつ歩いていると、淮海中路1131号にそびえ立つ屋敷に辿り着いた。
この建物は、今でこそ楽器店が入っているが、以前は闇社会とのパイプをうまく利用し、金融業で大成功を収めた席ファミリーの屋敷だったそうだ(写真④)。ここで急に、「ボスの死に様を教えてやる」と言い出すアニキ。参加者の1人に帽子を被せてボスに、自らを敵対勢力に見立て実演を始めた。成功を収めた反面、敵も多かった席氏だが、愛犬との散歩タイムを何より愛していたという。そこで取材班扮する席氏がふんふふ~ん♪ と散歩に出かけたところ…何が起こったのかは、実際に参加してもらった方が良いだろう。
スリの手口を学ぼう
一行が東湖路へ差し掛かった辺りで、アニキが今度は、19世紀に使われていたお金とあるアイテムを取り出しスリの手口を伝授してくれた。この手口、当時実際に使われていたというが、これまた最初はジョークかと思ったほど、仰天(写真⑤)の発想であった。しかし驚く暇もなく、スパルタなアニキは我々に実践を促す。被害者役のポケットにお金が入れられ、ほかメンバーにアイテムが渡された。このツアー中に盗んでみろ! とのこと。スキを見計らって挑戦するが、やはり難しい…立派なギャングスターへの道は険しいようである。
それから東湖路、新楽路と進み、一行は上海で最も有名なギャングスター、秘密結社「青帮」のボス、杜月笙邸へ及んだ(写真⑥)。ここで印象に残ったのが、闇社会に関わり、成功した者はその多くが暗殺される、という最期を迎えているが、なぜ彼が無事でいられたのか、という話。それはあるものを常に持ち歩いていたからというのだが…臭いとか大丈夫なんだろうかと心配になるエピソードであった。
オプションで銃の撃ち合い
それから一行は、宋家3姉妹に縁あるレストランへ。そこで一杯楽しみながら、明日からの仕事内容(=カジノでのいかさまの手口)を教わり、ツアーは終了(写真⑧)。クイズや実演に参加しながらのエキサイティングなコースで、2時間半があっという間に過ぎた。
情報量が多く、お腹いっぱいのツアーであったが、ここまで来たら1日中ギャング色に染まりたい! という人もいるだろう。そんな人は、オプションの、「コップスVSロバーシューティングコンペティション(警察VS強盗撃ち合い試合)」に参加し、射撃場でシューティング体験しよう。気分がさらに盛り上がること間違いなしだ。
info
店名 NEWMAN TOURS
価格 「Gangster Tour」(260/団体、290/個人)、「Gangster Tour & Cops vs Robbers Shooting」(490/団体、540/個人)
サイクリストと行く夜観光
こちらは、自転車によるツアーを専門に打ち出している旅行会社「China Cycle Tours」による企画。毎週水曜、陽が落ち周囲がうす暗くなり始める18時~19時頃からスタートする、夜のサイクリングツアーだ。
参加者は3時間かけ、外灘から田子坊、旧フランス人居住地に新天地、南京路など、市街の美しい夜景スポットを巡る。案内してくれるのは、自転車レースに度々参加していたり、「自転車に乗っている時が一番幸せ」と語ったりと、とにかく自転車LOVEなガイドたち。彼らと走る夜の街は、いつも見慣れた上海とは違う顔を見せてくれる。
参加費には、自転車、ヘルメット、アンクルバンドのレンタル代のほか、浦東地区へ行く場合はボートチケット代を含む。仕事終わりに、身ひとつで参加できるのがうれしい。
水郷や登山ツアーも用意
そのほか、同社では各種自転車コースを用意。水郷の古い水路の傍や石橋を爽やかに駆ける「朱家角水郷サイクリングエスケープ」、チャイルドシートや子ども用自転車を利用し、小さな子どもも一緒に参加できる「ファミリーツアー」など、ステキな思い出作りにピッタリだ。
体力に自信がある人は、マウンテンバイクで山道を登る「莫干山―2デイズサイクリングアドベンチャー」や「黄山ツアー」がオススメ。初心者にはキツイかもしれないが、汗を流して登り切った後に眺める景観は格別だという。
info
会社名:China Cycle Tours
電話:137-6111-5050
Email:info@chinacycletours.com
Website:www.chinacycletours.com
価格:「the Shanghai Charming Night Bike Tour」1~2人/400元/人、3~5人/350元/人、6人~/300元/人
~上海ジャピオン2014年3月28日号