夏休みの宿題の主軸となるのが、この『暑假生活』。これは、日本の小学校で多く使われている夏休みの心得と宿題が収められている「夏休みの友」に当たり、数学(算数)、語文(国語)、英語などの問題が、バランスよく盛り込まれている。
各学年の学習総まとめ
今回は、上海市の小学校に通う維維(ウェイウェイ)くんの家にお邪魔し、夏休み課題を見せてもらった。まず、基本となる『暑假生活』の1年生版をチェック。1日見開き2ページで、計24日間で終えるようになっている。中国では、9月に進級するため、これは1年生の学習の総まとめというところだろう。
主要科目に含まれる英語
では、気になる中身を覗いてみよう。「語文」では、音読を始め、前鼻音と後鼻音の区別、ピンインから単語を探す問題など。挿絵付きで、楽しく勉強できるように、との工夫も見受けられる。次に「数学」の問題を見てみると、規則性を見つけて、数字を入れていき、その表を利用して、計算していくという、思考力を要求される問題、これには取材班も驚いた。我々が小学生の頃は、ドリルでひたすら計算を繰り返す、反復勉強スタイルだったような…と振り返る。また、日本の小2生の代名詞とも言える、九九暗記も出ているとか。そして、日本と最も大きな差があったのが「英語」。アルファベットの学習はすでに済ませており、英語が意味する内容を絵で書き表したり、絵を参考に、質問に答えたりするものまで。日本では、2011年から小5・6生の英語が必修となったが、中国は、さらに先を行き、小1生から開始されているのだった。
そのほか、フルーツサラダ作りや、羽蹴り挑戦などの体験課題も随所に盛り込んである。
机に向かってカリカリと鉛筆を滑らすだけが、勉強ではない! ということで、中国の小学生の間でも、様々な実践課題が展開されている。
親子で学ぶ実践課題
先ほど紹介した『暑假生活』の中に、上海昆虫博物館や上海科技館、上海郵政博物館、上海風電科普館へ行く、というものがある。博物館にはPOS機が設置されており、そこで参加証明書を発行してもらい、後で学校へ提出するのである。今回、維維くんが行ったのは、楓林路にある「上海昆虫博物館」。軌道交通4・7号線「東安路」駅近くで、交通の便もよい。取材班は土曜に見学に行ってみたが、親子連れの来館者で賑わっていた。また、何人かの子どもたちは、〝上海市中小学生社会実践基地〟と書かれたファミリーパスポートを持参し、これにハンコを押してもらっていた。同パスポートには、東方緑舟や上海博物館など、市内41カ所の社会実践基地の概要が書いてあり、入場料が無料となるほか。20スタンプ集めると来年用のパスポートがもらえるという。同パスポートは、市内で6万部発行。
中国版町内会活動も
このほか、地域ごとの社会活動項目も課される。学校の先生や保健の先生が引率のうえ、民事警察による安全教育講座や、上海南湖汽車知識科普基地の参観、写真立て作りのDIY講座などがある。維維くんは、同講座で、カラフル写真立てを制作したようだ。子どもたちは参加後、配布された「実践カード」にハンコを押してもらい、9月2日(月)の始業式に学校に提出するという。これはもしや我々のラジオ体操カードに匹敵するものか…? どの体験も地域と学校が一丸となって取り組むもので、すべて無料で参加できる。
「夏假生活」の最初、「読書伴我成長(=読書とともに成長する)」と題されたこのページには、夏休みの推薦図書リストが並んでいる。この中から学校指定書2冊を選び、さらに自由選書1冊を読むのが課題だ。
中国版道徳の教科書
学校指定のうち1冊目は『少児版・小故事大道理』。これは、日本の道徳の教科書のイメージで、自信編、成長編、習慣編など全9カテゴリ、73の物語が紹介されている。成長編の「希望の弦」は、目の見えないバイオリニストが医者からもらった薬ではなく、盲目の弟子とともに、貧しい人々にすばらしい演奏を聴かせ、希望を得るという教訓的な物語。また、心態編の「ガラス窓の太陽」では、窓にある小さな汚れを気にするあまり、家の中に優しく差し込む太陽の光に気づかない子どもに、目を開いていても、実は見えていないものや気づいでいないことがあることを諭している。そしてもう一方の『誰喜歓~』は、風、雪、雨、太陽の全4シリーズで、自然の仕組みを絵本仕立てで解説する、図鑑のような本だ。
ママを想って選んだ本
維維くんが選んだのは、アイルランド出身のサム・マクブラットニィ作、アニタ・ジェラーム絵の絵本『どんなにきみがすきだかあててごらん』。選んだ理由は「ママが大好きだから」と、何とも可愛いコメント。内容は、2匹のウサギが、「どんなに相手のことが好きか」を伝えることを競い合う、という心温まる話だ。しかし驚いたことに、これらを読んだ後の読書感想文なる宿題はないのだという。何とも羨ましい話。ただし、年間を通した読書カードというものが存在し、読み終えるごとに、3行程度の簡単な感想文を書くようにと指示されている。
7・8月と、丸2カ月もある夏休み。テキスト1冊だけなら楽勝だな、と思っていたところ、加えてママからの宿題があるのだそう。確かに、暇を持て余すよりやるべきことがあった方が楽しいのかも。維維くんのママはどんな宿題を提示したのだろうか。
2年生の予習も完璧
まずは、国語、英語、算数の問題集それぞれ1冊ずつ。国語は読解問題、英語はアルファベット表記の練習、算数は2年生の予習で構成され、それぞれ、日に決められたページをこなしていくという。気になる学習時間について尋ねてみると、1日45分とのこと。(1科目)15分×3科目で、各科目とも短時間に集中してで取り組んでいる。
夏休みも習い事は継続
これらのテキスト以外に、毎日勤しんでいるのが、ピアノのお稽古だ。8月に進級試験が控えていることもあり、午前1時間、午後1時間、夜20分の練習をママから言い渡されている。そのほか週2回45分ずつ、先生とのレッスンもあるという。同じく習い事として、週1回2時間ペースの英語教室、そして、宿題というよりご褒美かもしれないのが、水泳だ。近所のプールへ行き、フリースタイルで自由に泳ぎを楽しんでいる。「平泳ぎが得意だよ。本当は毎日行きたいんだけど…」と維維くん。しかし、ママと週3回までとの約束をしたので、我慢しているのだとか(笑)。
さらに、部屋の中を見回してみて、面白いものを発見した。大きな箱に入った蚕の幼虫だ。1年生は、「自然(理科)」の授業の一環で、蚕を持ち帰り、育てることになっているのだそうだ。そのほか窓辺には、維維くんが育てているという鉢植えが。蚕の観察と植物への水やりも、夏休みの日課なのだった。
~上海ジャピオン2013年8月2日号