京劇 | 中国・上海日本語フリーペーパー『上海ジャピオン』ウェブサイト

2008/3/7
上海ジャピオンの特集

京劇

　だから京劇に感動する

【問い１】雑技とドラマと民俗音楽を同時に楽しむ方法は？

【問い２】中国以外では滅多に観る機会のない稀少なステージは？

【問い３】ほんの少し観方を覚えるだけで感動できる中国の伝統芸術は？

　観光客の多くが楽しんでいるものの、上海在住の人には意外に経験者が少ない「京劇」。しかし京劇が、安く、近くで、しかも毎週観られるというこの上海は、世界の京劇ファンにとってこの上なく羨ましい環境。このチャンスを見逃す理由はない！　そこで今週は、その魅力を簡単に味わうための方法を徹底研究。とにかくまずは体験してみて！　という情熱を込めてお届けする。

あらすじを知ればＯＫ
　京劇とは何か？　を説明するにはとてもスペースが足りないので、ここでは初心者が楽しむために最低限知っておきたいポイントを紹介しよう。教えてくれたのは、京劇歴6年、毎週の舞台鑑賞を欠かさないという筋金入りのファン・野口千広さんだ。とにかく抑えておきたいポイントはふたつ。

①あらすじを予習しておく
②観客として積極的に参加

「もちろん京劇は全編中国語なので、話が分からないと辛いんです。あらすじを知っておくのはもう絶対必要ですよ」と野口さん。もし京劇は退屈だと感じた人がいたなら、物語を知らなかったのでは？　逆に言えば、京劇は内容さえ知っていれば簡単に楽しめるのだ。有名な劇のあらすじは、ネットで検索すれば大抵日本語で読める。

開場前の舞台裏を覗くと、出番に向けて
メイク中の女優さんが！

　そしてもうひとつの秘訣が、拍手や合いの手に積極的に参加すること。「やっぱりライブ感覚というんでしょうか、俳優と客席が一緒に沸く時があって、それが楽しいんですよ」と言う野口さんは、とりわけ客と舞台との一体感がある若手出演日がお気に入りだとか。テレビではない。ライブイベントとして目いっぱい楽しもう！

　　　　　　　　　　　　　　　　　　写真は逸夫舞台。上海で京劇といえば、ここ。舞台左右にある電光スクリーンに、セリフ字幕が表示される

ここを観て欲しいんです！

●主役登場にまず拍手を！
【拍手・合いの手】

幕が開き、舞台に主人公の女性・白素貞とその妹分・小青が登場（その正体は、白蛇と青蛇①）。さっそく大きな拍手が起こり、編集スタッフも慌てて手を叩く。俳優のファンも多いようで、宝塚歌劇に似たムードも感じる。この後も、見せ場のたび拍手や「ハオーっ」という合いの手が入るのが楽しい。
　「登場シーンでは、あそこに俳優名が出るんですよ！」
　野口さんが指すのは、舞台左右の字幕スクリーン。ここで俳優の名を覚え、ファンになるそうだ。ちなみに京劇のセリフは中国人でも聞き取りにくく、観客は字幕を見ながら鑑賞する。

●見えない舟が見える!?
【しぐさの妙】

　「ここすごいですよ！　本当に舟に乗ってるようで……」
　そう野口さんがささやいたのは、白素貞が人間の青年・許仙に出会い、互いに惹かれ舟に乗るシーン（②）。なんと舟の小道具がないのに、舟が揺れたり向きを変える様子が、俳優たちの動きで伝わる！　これぞ京劇の四大要素「唱念做打」の中の「做（しぐさ）」。俳優は歩き方や顔の向きなど、あらゆるしぐさで空間を表現するのだ。「机ひとつ椅子ふたつ」ですべての場面を表現すると言われる京劇の真髄を堪能しよう。
　この後、白素貞と許仙は夫婦となるが、僧・法海の企みで妻の正体を見てしまった許仙は瀕死に（③）。このくだりの「做」に編集スタッフも思わず見入る。

①主人公の白素貞は、千年生きた蛇が化身した美女

②船頭を含め、舟に乗る４人全員の息を揃えた演技に、
見えない舟が見える！

③正体を見た驚きのあまり許仙は倒れてしまい、白素
貞は嘆き悲しむ

④夫を蘇生させる薬草を得るため、薬草の番人たちと
戦う白素貞

⑤妖怪軍団ＶＳ神将たちの壮絶な戦いが物語の見せ場に

⑥妖怪たちの動きはバリエーション豊か。コミカルな
動きもあって飽きさせない

●雑技・武術のアクション!!
【立ち回り】

許仙を救う薬草を求め、白素貞は薬草の番人と戦う（④）。四大要素の「打（立ち回り）」に場内も一気に沸く。待ってましたと編集スタッフも大興奮。
　薬草が手に入り許仙が蘇生すると、今度は法海が許仙を金山寺にかくまってしまい、引き続いて本編最大の立ち回りになだれ込む。夫を取り戻そうとする白素貞が妖怪軍団を率いると、法海が仏門の神将たちを呼び寄せ、人知を超えた壮絶な戦いが始まるのだ（⑤～⑧）。ハリウッド映画かマンガのようだが、これもまた古今東西エンターテイメントの基本。
　「よく見ると、中国の武術や雑技の型をしっかり取り入れているのが分かるんですよ！」
　盛り上がる野口さんの言う通り、宙返りや輪投げなどまさしく雑技の数々が展開。演技や歌に加えアクションをもこなす京劇俳優に改めて驚愕だ。特に「?出手」という槍が飛び交う華麗な技には言葉を失う。

⑦いつまで続くのかという連続宙返りシーンは、
まさに雑技

⑧無数の槍をはじき返す白素貞。飛び交う槍の
一本も地に落ちない光景は神技のひと言

⑨（右下）この人を責めないで、という白素貞
の一途な想いが観客の心を打つ

●歌いあげるメロドラマ
【歌に酔う】

　戦いの後は、男女の心情が溢れるクライマックス。寺を抜け出した許仙が白素貞と再会するが、寺にひきこもった許仙の薄情ぶりを小青が責める。許しを請う許仙（⑨）。「もういいの小青。それでも私は彼を愛してる…」そう歌う白素貞が、「唱（歌）」を見事に魅せてくれる。
　「彼を許しちゃう白蛇さんに、いつも泣けるんですよね…」
　すすり泣きながら野口さんがぽつり。ここまでドラマにのめり込めば、「念（セリフ回し）」にも感動できる。最後は編集スタッフも含めて観客総立ちの拍手の中、幕が閉じるのだった。

　ではここで、京劇初心者に向けたＱ＆Ａをお届け。これであなたの感動スキルもアップ！

　
●隈取りメイクの意味は？

　京劇の定番イメージである隈取りメイクは「?譜」と呼ばれ、起源は古く唐代の人形劇に遡る。赤は正義感が強い、白は無慈悲で危険、など色や模様に意味があるが、初心者的には「強烈な個性をアピールしている」と理解しておけばＯＫだ。

　
●役柄の区別を教えて！
　京劇の役柄は大きく分けて生（ション）、旦（ダン）、浄（ジン）、丑（チョウ）の４つ（上の説明を参照）。どれもひと目で区別できるので、それぞれの役柄の性格を知っておけば物語を一層楽しめる。例えば鼻が白い人物が出てきたら、きっとコミカルな演技をするはず！

　
●音楽は生演奏なの？
伝統楽器を使った音楽も京劇の魅力。俳優の演技や歌、立ち回りと密接に連動しており、もちろん生演奏が基本だ。通常７、８人ほどの編制で、ステージ右横にある演奏スペースは、客席からも覗くことができる。

　
●男が女役を演じるの？
　京劇を世界に知らしめた映画『さらば、わが愛　覇王別姫』では、男ながら絶世の美女に扮する女形俳優をレスリー・チャンが鮮烈に演じた。元来、京劇は日本の歌舞伎のように男だけが舞台に立ち、女役も男が演じていたのだ。ただ20世紀以降は女性俳優が進出し、今では女形はほとんどいない。一部では、男だけの世界だった艶やかな舞台を懐かしむ向きもある。

多くの劇場には音響設備があり、俳優の
歌や音楽をマイクでひろっている

チケットはいつでも買える

さあ、あとは体験するのみ！　まずは京劇を上演する逸夫舞台のスケジュールを下記のページで確認だ。通常は、金曜の夜と土日に上演があり、１日に３～５演目をダイジェスト形式で上演することが多い。
　演目は、内容を調べて自分の好みを選ぶのがポイント。初心者には、立ち回りの多い演目（武劇と呼ぶ）がオススメだ。なお、例えば三国志なら「空城計」「戦長沙」など多くの演目があり、演目名を見ても「三国志」「西遊記」「水滸伝」などのタイトルは見つからないので注意。分かりにくければ、とりあえず日本語で検索し、多くヒットする演目を選んでみよう。
　演目を選んだら、後はチケットを買うだけだ。日時が決まっているものならいつでも購入できる。価格は席によって通常30～２５０元ほど。劇場で直接買えるほか、下記中国語ページで予約すれば自宅まで無料配送してくれる（パスポート番号入力欄で、数字のケタが足りないというエラーが出ることがあるが、その場合適当な数字で穴埋めすればＯＫ）。
　当日でも席が空いていることが多い。もちろん、事前のあらすじ予習は忘れずに！

京劇のＣＤや雑誌を販売する逸夫舞台の一階は、
開演前からファンで賑わう。時間に余裕を持って
到着し、その熱気を味わうのもいい

逸夫舞台
3月の主な京劇スケジュール

1921年に完成した京劇舞台で、芥川龍之介も訪れた。観客席は2階席も含めて928席。公式サイトには日本語ページもあるが、スケジュールを確認するには中国語ページの方が分かりやすい。金・土・日以外では、昆劇や越劇など、京劇以外の演目であることが多いので要確認。

3月7日（金）19：15～
「断橋」「搜孤救孤」「探皇陵」ほか
3月8日（土）13：30～
「時遷盜甲」「霸王別姫」「烏盆記」
3月14日（金）19：15～
「百花贈剣」「鎖五龍」「大登殿」ほか
3月15日（土）19：15～
「虹霓関」「貴妃酔酒」「釣金亀」ほか
3月16日（日）13：30～
「雁蕩山」「昭君出塞」「鉄籠山」ほか
3月21日（金）19：15～
「仏手橘」
3月22日（土）13：30～
「扈家庄」「?美案」「春閨夢」
3月29日（土）13：30～
「火焼余紅」「野猪林」「芦花蕩」ほか