日本に比べ格安の運賃ということもあり、普段からとても身近な存在となっているタクシー。
でも、そのホテルのような星制度や、藍色連盟など、良くわからないこともたくさん。
そこで今週は、上海のタクシーについて紹介しよう。
星制度は何のため?
目指すのは
業界全体の向上
国内でも上海市だけにしか見られないタクシードライバーの星制度。その試験は年に1度行われる。試験内容は、車輌の整備に関する知識やスキル、サービスマナーはもちろん、市内観光名所の基本情報のほか、3ツ星以上からは日常英会話が加わる。
意外にも、道に詳しいかどうかを問われることはないのだが、それでも星ナシはあまり道を知らない、星アリでも多いほうが道に詳しい…という印象があるのはなぜだろう。
それは、星制度の受験資格に勤続年数が関係していることが挙げられる。左図にもある通り、受験資格は勤続年数に応じて定められている。そのため、星が多いほど道に詳しいというイメージは、理に適っているのだ。
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ちなみにこの星制度は、ドライバー自身にスキルやサービスを意識させることで、上海市のタクシー業界全体の向上に努めようということで2001年6月15日に始まった。では、星が多いほど初乗り運賃が上がり収入が増えるのかと言えばそうでもなく、星ナシでも5ツ星でも運賃は全く同じ。それではドライバーにとって星を獲得するメリットがどこにあるのか。これには様々な意見がある。
5ツ星ドライバーである郭忠栄氏(56歳)によると「確かに運賃は5ツ星も星ナシも変わらない。だけど、もし2台が並んでいたら多くの人は5ツ星に乗るでしょう? 星があるだけで乗客獲得に有利になる。だから、結局は1日の売り上げにも差が出てくるんです」と、そのメリットを強調する。
また、大手タクシー会社では、自社で様々なインセンティブを用意し、星獲得へのモチベーションを上げている。
例えば強生タクシーでは、5ツ星を取得すると賞与として3000元を贈呈。4ツ星でも2500元、3ツ星の場合は2000元となっている。大衆タクシーの場合は、4ツ星以上のドライバーを対象に、過去3年間にいかなるクレームも事故もない者には、海外旅行を。昨年はこれで130人以上が海外旅行を手にした。
5ツ星ドライバーを20人以上抱える錦江タクシーの場合は、こうしたインセンティブに加え、ドライバーの試験合格をバックアップするために、独自に教育を行うなど積極的な姿勢を見せている。
紺色の車体で走る
藍色連盟って何?
赤タクの実態は?
タクシーのボディカラーで分ることがある。現在市内に存在するタクシー会社は大小合わせて約140社。一時は550社程度にまで膨らんだというから、これでも随分淘汰された。
会社の保有車輌数が1000台を超えると、自社カラーを設定することができる。大衆タクシーのブルー、強生タクシーのゴールド、錦江タクシーのホワイトなどがそれに当たる。現在自社カラーを保有するのは、大衆、強生、錦江、巴士、そして海博。これらが、上海タクシー業界を牽引する大手5社だ。
そして保有車輌数200~999台が、藍色連盟に属する中企業。社名灯の後ろ側にそれぞれの社名がある通り、彼らはグループ会社という概念ではなく、個々に活動するそれぞれ別の会社。しかしこの保有台数の会社は、上海市交通局によって藍色連盟に加入することが定められており、一定のサービス基準が設けられている。
保有車輌数200台未満の小企業は、すべて赤で統一。以前は個人タクシーも存在していたが、ぼったくりや遠回りなどの悪質タクシーが横行したため、現在では個人レベルの企業は前述の5大タクシーが管理を任されている。例えば、「申生」というタクシーは、強生タクシーが管理する小規模タクシーの総称だ。サービスや衛生面などの管理をこうして大手タクシー会社が担うことで、市内のタクシー業界は次第に改善されてきている。
とは言っても、依然として無認可で営業を続ける悪質の赤タクシーは存在する。大手が管理している場合は、車内の衛生管理が徹底されているので、車内の衛生状態も悪質かどうかを見分ける判断材料のひとつとなることを覚えておこう。
厳しい衛生管理
毎日続くチェック
項目は40以上!
真っ白なシートカバー。制服を着用しているドライバー。すっかり当たり前になった車内風景も、各社が競うように打ち立てた管理体制で実現させた。
大手タクシー会社では、上海市交通局が藍色連盟に課したタクシーの基本規定に加え、それぞれ独自のチェック体制を確立(右下参照)。中には40数項目ものチェック項目を設け、全車両を対象に1日も欠かさず監査を行っている企業もある。
その項目を見てみると、擦り傷の有無、ライト破損の有無などの外観から始まり、シートカバーの汚れ、灰皿の中身、空調の作動状況、トランクの中身などの内装、さらに、乗務員カード、営業許可書、消火器の携帯まで多岐に渡る。ひとつでもクリアしていない項目があれば、その場で改善して再チェックを受ける。それでもクリアしない場合は、その日の営業は許可されないばかりか、再教育を受けなければならない。
また、車内禁煙も大衆タクシーを先駆けに、一気に広まった。乗客がいる賃走の場合はもちろん、空走の間も厳守しなければならず、どうしても吸いたい場合は車を停車させて車外に出なければならない。これを徹底させるために、市内には一般車輌に交じって各社が監督車輌を走行させ、常に自社のドライバーをチェックしている。
靴下の色まで指定
女性は厚化粧禁止
身だしなみも徹底
ドライバーは車輌の衛生管理だけでなく、自身の身だしなみも厳しくチェックを受ける。
大衆タクシーの場合、夏場は白のシャツに紺のスラックス。靴下は紺や黒などの濃い色でなければならない。長髪や不精ひげももちろん禁止。さらに女性の場合は、化粧の具合までチェック項目に加えられる。厚化粧は厳禁だ。
あまりにもドライバーへの要求が厳しいので聞いてみると、「ドライバーはストレスが大きいと思いますよ。それでも、私たちはドライバーのためではなく、乗客のためを第一に考えなければなりませんからね」と、大衆タクシーの凌東書・総合事務局主任は慎重に語った。
運転手は中国代表
上海万博に向けて
改めて教育を徹底
上海万博の開催に向けて、タクシー業界にも様々な動きがある。各社ともに共通しているのが、〝さらなるサービスの向上″だ。その動きを代表するかのような言葉が、錦江タクシーで聞いかれた。
「我々は、上海人からしてみれば錦江タクシーとして見られますが、他の都市から来た中国人からしてみれば上海人、そして、外国人からしてみれば中国人という認識になります」。多くの外国人が訪れる万博。その際に、ドライバー1人ひとりに中国人を代表しているという意識で仕事に取り組んでもらいたいと話す。
また星制度とは別に、各会社で独自の外国語教育を開始。中には師範大学の教授を招いての講習会を開催する企業も。今後はすべてのドライバーに、日常簡単なタクシー用語程度の英会話を習得させようと、各社とも全力を挙げて取り組んでいる。
【大手3社の素顔】
今回、上海タクシー特集に取り組むに当たり、強生・錦江・大衆の3社に取材を行った。
ここでは、上記までで紹介しきれなかった各社の別の側面を見ていこう。
「ようこそお越し下さいました」。南京西路沿いにある強生タクシー本社の会議室。先に通されて待っていると、総経理の張国権氏と広報担当の程林氏が入ってきた。広い会議室には、プロジェクターが用意され、モニターの準備も整っている。
まずはこれをご覧下さい――そう言ってスクリーンに映し出されたのは、今、正にGPSで追跡している市内を走行中の7000台の強生タクシー(図1参照)。遅いと赤、早いと緑など、走行速度ごとに車輌を色分けしているため、市内の道路状況は一目瞭然。さらに、賃走か空車か、どこに向かっているのか、南京西路上に何台走っているのか…など、あらゆるデータが詰まっている。
1日に述べ2万件を数える呼び出しコールに対応できるのは、このGPSシステムのなせる業。実に1日あたりの全呼び出しコールの5割を占めるという強生の強みがここにあった。
そんな路上をメインに活躍する強生タクシーとは対象的に、特定のスポットに常駐するのが真っ白な車体がトレードマークの錦江タクシー。
「我々は主に5ツ星などのホテル、ヴィラや○○花園と言った高級住宅地、空港などと契約を結び、専用の待機所を設けています」(李捷・党群工作部主任)
外国人をメインターゲットとし、ドライバーの外国語教育にも力を注ぐ。「外国人からしてみれば、タクシードライバーのマナーやタクシーの品質というものが、引いてはその国の文化程度を測る物差しになる」。だから、タクシーは中国の代表、中国の顔であるという意識で取り組んでいるという。
外国語の教育は、師範大学の教授や、専門教育を受けた学生らに依頼。サービスマナーは、東京のタクシードライバーを見本にしているという。
そして、それら2社とまた別の面で一線を画すのが、徹底した顧客志向の大衆タクシー。「一切為大衆(すべては大衆のために)」をスローガンに掲げ、乗客主義の教育を行っている。
「上海のタクシー業界は以前、ぼったくりや遠回りの絶えない乱れたものでした。自分さえ良ければいいのではなく、お客様のことを考え行動する。そうしないと、タクシー業界は良くなりません」(凌東書・総合事務局主任)
守るのは従業員(ドライバー)ではなく乗客。その理念の下、従業員に課した規定は非常に厳しいものだった。当初はそれに反発し、辞める者も続出したという。そんな波乱を経て数年、アメリカの定める徹底した顧客志向に取り組む企業に贈られる「マルコム・ボルドリッジ賞」を中国で始めて受賞した。
~ジャピオン8月29日発行号より