新卒白書

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 まずは、実際の新卒社員の様子を見る前に、
中国における大学生の就職活動や新卒社員の特徴などについて、
日本との違いを中心に探ってみたい。
人材紹介と就職サポートを行う「上海テンプスタッフコンサルティング」の中山さんに話をうかがった。

就職活動は4年次10月から
「実習」から正社員へ

 日本と中国では卒業時期が違うので、就職活動の開始時期も異なる。
日本では、就職協定が廃止された1997年以降年々就職活動が早まり、
今では3年次の秋から始まるのが通例だ。
「中国の就職活動は、企業の就職セミナーや企業のホームページ、
人材紹介会社を通して、4年次の10月頃から始まります」と中山さんは話す。
 また、中国では、早ければ12月頃から卒業するまでの間、「実習」という形式で会社での仕事が始まる。
ただ、実習から正社員への道が保証されているわけではないので、大学卒業まで就職活動は続く。
もちろん実習先を変えることも可能だ。

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就職してから適職選び
1年以内の離職率30%

 では、日本人学生と中国人学生とで、就職に対する考え方の違いはあるのだろうか?
 中国人学生の間では、まず就職してから自分に合う仕事を選ぶという考え方が広がっており、
その点では現代の日本と大差はない。
また一方で、「中国では退職金制度が基本的にないので、
日本のように我慢してもう少し長く働いてみようと言う考え方は弱いですね」と、
日本と違った面もあることを中山さんは話す。
 また、最近の大卒新入社員は、プライドが特に高く、自分の能力を過大評価する一方で、
プレッシャーや挫折にとても弱く、精神的に潰れやすいことから俗に「草苺族(イチゴ族)」と呼ばれている。
自分に都合のいい言い訳を見つけ、簡単に仕事をやめるため、
新卒入社から1年以内の離職率は約30%に上る。
それに対し中山さんは「企業が社員にやりがいを見つけ出せる環境を用意できるかどうかも大切」と、
今後の企業の課題も指摘する。
 それでは、実際の新卒社員の様子を見ていこう。

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毎日20社以上営業訪問
忍耐力は北島康介仕込み?

 究極の目標は、「コクヨの総経理になること」と、冗談めかして話すのは、
文房具・事務用品の総合メーカー「コクヨ」の営業部で働く岳馳力さん。
 大学ではビジネス英語を専攻し、日本語とはあまり縁のない生活を送ったが、就職活動の際に、
インターネットでのコクヨのしっかりとした教育システムと、
上司と部下との隔てがないアットホームな雰囲気という評判にひかれて入社を決めたという。
「それに、コクヨはとても有名な会社ですしね」とニッコリ。
 毎日、虹橋の淞虹路駅近くにある会社から遠く離れた閘北区で、
15社以上の新規クライアント開拓、5社以上のクライアント訪問をするのがもっぱらの仕事だ。
「自分が説明したコクヨの商品の良さを相手に認めてもらうことを通して、自分も認められたと感じたい」。
それが仕事の原動力となっている。
 また、小さい頃から水泳が好きで、夏になると毎日プールで泳いでいたという岳さん。
今でも休日は1時間程泳ぐ。
五輪金メダリストの北島康介に憧れて、我慢強く平泳ぎの練習に明け暮れたその経験が、
今の新規営業開拓に活きているのかもしれない。
 「働き始めたときは、臆病になって商品を上手く説明できず、
顧客に無視されることもあり精神的ダメージも大きかったです。
でもへこたれずに休日も使って自社商品の特徴を徹底的に研究し、商談相手を分析して、
話題や話し方を変えていくことで商談も上手く行くようになり、自信も付きました!」
と自分の成長に胸を張る様子には、最近の新入社員に多いとされる打たれ弱さは微塵も感じられない。
当面は、大きな区域を任されるようになるため、一歩一歩上司の背中を追いかける。

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居心地の良さが決め手
チャレンジ精神で仕事を

 「顧客の要望を聞いて、それを現場の工場に伝えて、
その後製品が注文通りに出来上がっていく過程を考えるのが楽しい」。
そう話すのは、ガーゼやマスク、
注射針などの医療用品を取り扱うアメリカの貿易商社「INTCO」に勤める劉涵さん。
 世界的に有名な日系家電メーカーで実習として仕事をしたこともある彼女だが、
最終的に同社に決めた理由に居心地の良さを挙げる。
「INTCOにいるのが当たり前のようになって、会社を離れるなんて全く考えもしなかった」と言う。
 現在は、営業アシスタント的な仕事が主だが、日本からの顧客を工場に案内しての製品説明など、
新卒社員にしては高度な日本語力が要求される。
「チャレンジしがいのある仕事ですし、人と交流するのが好きなので、私に合ってるのかも」
と話し、また、問題が起こったときの対応力が課題と冷静に自己分析もする様子は新卒社員離れしている。
 色々な面で大人びている彼女だが、女の子らしさも見え隠れ。
働き始めてからメガネをやめてコンタクトにするなど、大学のときより、外見に気をつけるようになったとか。
韓国語を勉強して、日本・中国・韓国それぞれの国を旅行したいといった様々な好奇心も、
彼女の仕事と生活のモチベーションとなっているようだ。
 「休日は、家族と上海郊外にドライブに行くのが楽しみ」という彼女は、
自らハンドルを握り、犬と思いっきり遊ぶために緑の芝生がある場所に出かける。
「今は、全力で仕事に打ち込んで早く一人前になりたいですけど、
いつか父母のように幸せな結婚をして、犬と一緒に暮らせたら良いな~」。
仕事と家族と犬。彼女の生活にはどれも欠かせない。

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自由より制約を
桜の舞う中誕生日を祝う

 事務機器や光学機器などの生産を行っているメーカー「リコー」。
その海外拠点で、プリンターや複合機の研究開発に携わる機会を得たのは、
東北地方の吉林大学を卒業したばかりの宋雷さん。
現在は仕様書とにらめっこしつつ、既存のプログラムソフトを改善するのが主な仕事だ。
 就職に関しては特に大きなこだわりのなかった彼女は、
大学に就職説明をしにきたリコーのプロジェクトスタッフの話を聞き、
管理が行き届いている会社だと感じたことが、リコーに就職した決め手だという。
 「自分は自由にして良いといわれたら、細かいところにばかりこだわってしまうので、
ある程度管理されたり、制約されたりした方がいいですね」と話す彼女は、
リコーの厳格な社風が合っていると感じている。
「生活にも、ちょっと制約が必要だと思います。
もちろん、彼氏にも束縛された方がいいかも(笑)」と屈託なく笑う。
 さらに、自らを「子どもの頃から、何事も一歩進んでは周りを見回す性格」と分析し、
自分のことを臆病者ともいう。
ただこの〝臆病さ〟は悪い方向に出ておらず、仕事をする上では慎重さに昇華されているようで、
現在の仕事に関しては今のところミスもなく、楽しくこなしていると話している。
また大学時代にはまり、今も時々通うというヨガ教室も、精神衛生上良い影響を与えているようだ。
 最後に、和服や神秘さ漂う桜が好きで「いつの日か、4月の自分の誕生日前に日本に行って、
桜の舞い散る中、誕生日を祝いたい」と夢を語ってくれた彼女。
持ち前の慎重さを発揮しコツコツと仕事に励めば、その願いが叶う日もそんなに遠い未来ではない。

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~上海ジャピオン8月28日号より

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