呼び名は違えど同じ野菜
日本でにわかにブームとなっている「パクチー」。パクチーチョコやスープなど、大手メーカーがこぞって関連商品を売り出し、果てはパクチー好きの人を指す〝パクチスト〟なる造語も誕生するほどの人気ぶりだ。しかし、この香味野菜は元々地中海沿岸で生まれ、中国やタイ、ベトナムなどのエスニック料理で使われてきたもの。もちろん中華料理にもパクチーはよく登場し、むしろこれなしでは成り立たない中華料理があると言っても過言ではないほどだ。
では早速、おいしいパクチーの食べ方を紹介…と行きたいところだが、その前にちょっとだけ、この野菜の基本情報をおさらいしよう。パクチーという呼び名は元々タイ語で、中国語で「香菜(シャンツァイ)」、英語で「コリアンダー」と呼ぶ。一応「コエンドロ」という和名もあるのだが、日本では「パクチー」で定着。また葉を生で使う際は「パクチー」、葉や茎を乾燥させ、香辛料として使う際は「コリアンダー」と使い分ける場合もある。
好き嫌いは遺伝子が決定!?
さて一方で、パクチーをどうしても好きになれないという人が、どこの国でも一定数存在する。中国でも「不要香菜(パクチーは入れないでください)」と書かれたスマホケースが売られているほど、この野菜に悩まされる人がいるようだ。近年の調査で、パクチーの好き嫌いは嗅覚受容体遺伝子が関係していることが判明した。あるタイプの人は、野菜なのに匂いが石鹸のようと感じ、受け入れられないんだそう。
でもせっかく中国にいるのだから、〝パクチスト〟はおいしいパクチー入り中華料理を押さえておこう。次のページからは、パクチーをとことん味わえる料理の数々を紹介していく。
パクチーの栄養を損なわず、味や香りを思う存分堪能したいなら、生でムシャムシャ頬張るのが一番! パクチーをこれでもかというほどふんだんに使った中華料理をご紹介。
①香菜小素鶏
小素鶏とは、味や食感を鶏肉に似せて作った大豆製品のこと。カマボコに似た食感と素朴な味わいが特徴で、よく中華料理店の前菜として登場する一品だ。
「香菜小素鶏」は、これにパクチーを加え混ぜ合わせ、醤油を掛けていただく。小素鶏の弾力ある食感がアクセントになり、パクチーをいくら食べても飽きが来ず、どんどんいける。小素鶏のおかげで、パクチーがたくさん食べられます…思わず心の中でそう感謝せずにはいられなくなるだろう。
②皮蛋豆腐
アヒルの玉子を発酵させて作るピータン。こちらもパクチー同様、かなりクセのある味と臭いで、好き嫌いが激しく分かれる具材だ。皮蛋豆腐は豆腐の上に、ピータンとパクチーが揃った料理。口に入れると、曲者たちの濃厚な香りが口いっぱいに広がるが、それを豆腐がサラッとのどの奥へ流し込んでくれ、ゴマ油の風味が後味よい。ただしピータンやパクチーばかりを食べていると、かなりのパンチにノックアウトしてしまう危険があるので気を付けて。豆腐7割、そのほか3割ぐらいが理想。
③香菜巻
どうしてもパクチーをたくさん食べたい、パクチー狂いが考案した色モノ料理のようだが、中華料理のメニューとして立派に存在する。パクチーを分厚い湯葉「豆腐皮(ドウフピー)」で巻くだけという、至ってシンプルな料理。そのまま食べてもよし、醤油を掛けてもよし、「老干媽(ラオガンマー)」などのラー油系調味料を掛けてもよし。また軽く炙ったり、火鍋の材料として入れたりしてもおいしい。
パクチーが香味野菜としての真価を発揮するのが、肉やほかの調味料と一緒に煮たり、炒めたりする時だ。肉や魚の臭みをマイルドにするという役割を担うので、特に牛肉や羊肉との相性はバツグン。素材を引き立て、香りを添える、ひっそり名脇役のパクチーを楽しんで。
①老鴨粉絲湯
アヒル肉とアヒルの胆や腸などのホルモンに、血を固めた「鴨血」、春雨を一緒に煮た「老鴨粉絲湯」。白濁したスープにはアヒルの濃厚なコクと旨みが凝縮されており、昼食や夜食に人気の料理だ。パクチーの葉は料理の仕上げにパラリと落とされ、スープに香りを加え、アヒル独特の臭みを抑える役割を健気に果たす。ぜひ「香菜多一点(パクチー多めで)」とオーダーしてほしい。
②香菜炒牛肉
肉料理と相性のいいパクチー。肉類と一緒に炒めたり、煮たりすると、パクチーそのものの風味は薄まるが、肉の味を引き立てる。「香菜炒牛肉」はその名の通り、牛肉とパクチーを炒めた料理だが、この手の料理は料理名に「香菜」と書かれていなくても、実はパクチーが入っていることもしばしば。パクチー好きにはありがたいが、苦手な人にとっては地雷…オーダー時によく確認した方がいいだろう。
③酸辣粉
酸っぱい・辛い料理が好きな四川省や重慶市でよく食べられる料理。黒酢とトウガラシをふんだんに使った酸っぱ辛いスープに、サツマイモから作った太くコシのある春雨を加え仕上げる。薬味としてパクチーやピーナッツ、ザーサイが加えられているが、特に香ばしいピーナッツとパクチーの組み合わせが最高。口の中では薬味の香りが先陣を切り、弾力のある春雨が躍った後、酸っぱ辛いスープが爽やかに追っていく。色んな味、香りが忙しくのどを通り抜ける楽しい一品だ。
~上海ジャピオン2018年4月13日発行号