無料のネイルケアや店員のオモシロパフォーマンス、お菓子の手土産まで…来店客に〝手厚すぎるサービス〟を提供する店として、中国国内で圧倒的な支持を得ている火鍋チェーン「海底撈(ハイディーラオ)」。そのユニークな経営スタイルはどうやって培われて来たのだろうか? まずはハイディーラオの創業ストーリーを紐解いてみよう。
従業員は家族と同じ
社員を大切にする社風
ハイディーラオは1994年、四川省簡陽市で創業。たった4テーブルの小さな四川風火鍋店として始まった。創業者の張勇氏は当時、特に店舗拡大や全国展開を考えておらず、この一店舗の売り上げで、自分の家が買えればよいと思っていたという。ほどなくしてそれは叶えられ、自宅を手に入れた張氏。そして店を共に運営している料理長やマネジャーにも、自宅を買えるほどの利益を手に入れてほしいと、二店舗目、三店舗目と出店していく。
この話に代表される通り、同店の経営は、従業員を非常に大切にしているのが特徴だ。それは現在も同じで、ハイディーラオの従業員は店の近くのマンションを借り上げて住まわせ、日用品を支給するほか、掃除・洗濯・ベッドメイクはハウスキーパーが担当。地方から来た従業員には地図や地下鉄の乗り方をレクチャーし、彼らの子どものために、宿舎付き学校を建てたことすらあるという。張氏いわく「従業員は家族と同じ」。結果、同店の人件費は原価の25%以上と割高になっているが、離職率は飲食業界でも最低水準。従業員の入れ替わりによるコストを抑え、安定したサービスを提供している。
脅威のリピーター率98%
国内870店舗にまで拡大
「会社が従業員を大切にすれば、従業員は顧客を大切にする」とは張氏の理念。同氏は、顧客の不満が、食事時にそれぞれに生じた問題が解決されない時に生じ、それを従業員がフォローすると、不満から好感に昇華されることを発見。従業員ら1人ひとりがよく顧客を観察し、不満を解消するようなサービスを提供するよう指導した。結果、顧客が蚊に刺されれば虫刺されの薬を渡し、メガネが湯気で曇ればメガネ拭きを提供、カップルがケンカすれば花とメッセージカードを手に仲介する…そんな、一部からは〝変態的〟と評されるほどの、微に入り細を穿つサービスが実現。大勢のファンを獲得し、リピーター率は98%ともいわれている。
AI化が進む世の中と相反するような、人が資本の経営方針は社内外から支持され、ついに同社は2018年、中国香港市場に上場。21年4月時点で、企業価値は2893億香港㌦にまで成長した。店舗出店も勢いを増し、20年6月末時点で国内に868店舗、中国香港や中国マカオ、中国台湾、日本、シンガポール、アメリカなどに67店舗を展開している。
一方、手厚いサービスを提供するからこそ、消費者の期待も高く、企業の動向は厳しい目が向けられている。20年4月には、コロナ禍を理由に商品を約6%値上げしたところ、顧客からクレームが殺到。本社が謝罪する事態に陥った。
よくも悪くも、ユニークな企業運営は常に注目の的。次のページからは、ハイディーラオ初心者のために、その驚くべきサービスを紹介していこう。
あれもこれも無料サービス
ハイディーラオは顧客の満足度向上のため、無料のサービスをこれでもかというほど用意している。同社が全店舗統一で導入しているものだけで7種、さらに各店舗が独自で用意するものも加えると、とてもここだけでは紹介しきれないぐらいだ。
まず入店してすぐ広がるのが、広々とした待合ロビー。ここでは万一席が埋まり、行列ができた時に顧客が退屈しないよう、様々な工夫が凝らされている。ソファにはお菓子やゲームが置かれ居心地抜群。さらに無料ネイルケアコーナーや、靴磨きサービスまであり、キッズ用プレイルームを設ける店舗も。
そして食事中にも、たくさんのサプライズが。ディナーのピークタイムには、突然勇ましい音楽が流れ、ハイディーラオ名物、四川省の変面ショーがスタート。テーブルの間を練り歩きながら行われる早業は、なかなかの見ものだ。また麺をオーダーすると、麺職人が目の前で麺をびよーんと伸ばす迫力のパフォーマンスを披露してくれる。
イベント演出もお手のもの
さらにショーが終わったかと思えば、今度はハッピーバースデーのメロディーが鳴り響き、大勢のスタッフで顧客の誕生日をお祝い。ライトや看板を使って、実に賑やかに行われ、中にはフルーツを使った誕生日ケーキや無料の麺料理を出す店舗も。
ちなみに編集班は一度、ハイディーラオでプロポーズするカップルに出会ったことがある。バラを持ったスタッフが総出で2人を取り囲み、プロポーズ成功の瞬間、声を揃えて「おめでとう!」と祝福。それを聞いた周りのテーブル客も声を掛けたり、拍手をしたりと、フロア一体が幸せになれるステキな演出がなされていた。
1人鍋はVIP待遇?
これまで見てきたように、顧客へのサービス精神がモリモリのハイディーラオ。中でも、最大級の手厚い心配りが受けられると話題の〝1人鍋〟を、取材班が体験してきた。
まずは丁寧なエスコートのもと、テーブルへ。今回給仕を担当する店員、小陳さんが、胸に手を当て挨拶してくれた。そして対面にはかわいい人形が着席。早速、1人鍋オーダーの仕方を教わる。
同店の鍋は4つに仕切られており、それぞれにスープが選べる仕組み。1人の場合、1区画のみのスープを選べばOK。また具材もハーフサイズがあるので、1人でも2~3種類は楽しめる。
店員のスゴすぎる気遣い
料理が来てからも小陳さんは水を注ぎ、具材を鍋に入れ、鍋のアクを取り、ゴミを捨て…ありがたい、を通り越して恐縮するほど、こまめに世話を焼いてくれる。さらに「この料理好きですか? 僕もこれ好きで…」とか、「スープのお味はいかがですか? これは最近味が変わって…」など他テーブルに比べ話す時間が明らかに長い。そして別のスタッフが渡したおしぼりが、熱すぎたというトラブルには「あれはお客さんの興味を引きたくて、わざと熱いの渡したね」とささやくナイスフォロー(?)も。取材班が退店するまで計27回も声を掛ける気遣いぶりに、さすが! と圧倒されてしまった。
極めつけは、頼んでないけど食後にどんどん来るドリンクとデザート類。手土産の菓子までもらいとても満足、最後にトイレに寄ればそこにも店員がいて、荷物を預かったり、ペーパータオルを手渡したりしている。うーん、この怒涛のサービス! ぜひ一度体験してみてほしい。
~上海ジャピオン2021年4月16日発行号