青年起業家の挑戦 vol.2

すべてにこだわった店舗

暖簾が下がる木のドアに藍色のテーブルクロス、かわいい陶器のカップ…「全部自分の好きなもので揃えたの」とオーナーの趙さんは微笑む。ここ「叁叁カフェ」は昨年10月にオープン。いつ行っても、女性客で満席の一店だ。

江蘇省南京市でホテルを営む両親のもとに育った趙さんは、元々ホテル経営が専門分野。結婚を機に来海し、出産、育児を経て「スターバックスコーヒー」にて仕事に復帰。その後念願の自分の店をオープンさせた。

さすが経営学が専門だけあって、オープンに当たってはマーケット調査を行い、スタバから腕利きのバリスタを引き抜くなど技術・商品を念入りに準備。店舗設計から内装デザイン、カップ1つに至るまですべて自分で用意し、自分が好きなもので固めた店舗を作り上げた。ちなみに、店名にある「叁叁」の由来は「(自分が)33歳の時に作った店だから」なんだそうだ。

家族との時間も増やしたい

〝誰もが自分の居場所と思える〟というスタバの経営理念に感銘を受けたという趙さんは、自分の店でもその理念を掲げる。6割がリピーター、7割が女性という客層は、まさにその理念と、趙さんの人柄が作り上げたもの。彼女を姉のように慕う若い女性客も多いといい、それが何よりうれしいと彼女は語る。

将来の目標を聞くと、今度はマンション区の中にレストランカフェを開きたい、という答えが返ってきた。現店舗は商業エリアにあり、一見さんも少なくないが、次は8割ぐらいが常連の、コミュニティに根差した、ゆったりした店を作りたいという。「今は14時間働くこともあって、すごく忙しいけど、もっと家族と寄り添って、店作りをしていけたら」…次は、家族の時間と仕事の両立を目指す。

激戦区で勝ち残る

10号線「陜西南路」駅から東に延びる南昌路は、1・5㌔の道にカフェが25店ほど並ぶ、カフェ激戦区。白くシンプルな看板が目印の「QCT」は、2019年にここにオープンした。

店主である波波さんは、笑顔がキュートな25歳の青年だ。元々コーヒー業界で働いていたが、3年前に一念発起、同級生の友人と一緒に「QCT」を開店。当時は、競合も少なかったという。

しかしその後、すぐ近くに「Tims」など大手チェーンを含むカフェが続々と出店。さらに20年には新型コロナウイルス感染症が流行するなど、エリア一帯のカフェ経営は困難を極めた。実際、開店から半年も経たず姿を消すカフェも珍しくなく、「QCT」は南昌路で経営3年を超える数少ない老舗といえよう。

経営のコツを聞くと「僕の店はチェーン店じゃないから、商品にも顧客サービスにもこだわれる。リピーターが多いよ」との返答。実は編集班もそのうちの一人なのだが、波波さんは客の顔を見るとすぐ〝いつもの〟コーヒーを入れてくれ、笑顔で送り出してくれる。そんな気持ちのよさが、また来たくなるカフェを作っているのだろう。

オン・オフラインで展開

またコロナ禍を乗り越えるため、今年からデリバリーも開始。デリバリーサイト上では100以上のコーヒー店が競合になるが…「商品のクオリティには自信があった」とは波波さん。これがヒットし、月1200杯を超える売り上げを作り出した。一方で来店客のニーズに応え、店舗ではミニサイズのコーヒー提供もスタート。オンン・オフともにファンを増やしている。

将来は「上海市以外の年で2店舗目を出したいな」と語る波波さん。普段はランニングやビリヤードが好きなごく普通の青年だが、商品作りやサービスはピカイチだ。

昭和文化がさく裂する空間

店内にみっちりと貼られた昭和のポスターや看板、片隅でほほえむペコちゃんやサトちゃん人形…。あらゆる場所がどぎつい情報で埋め尽くされた、ジャングルのような雑貨店「小小的花花世界」の奥深くに、オーナー小小さんはちんまりと座っていた。

学校では生け花に関する技術を学んでいたという小小さんは、フラワーアレンジメントから洋服のデザイン、グラフィックデザイン、イラスト作成までを手掛ける才能溢れる女性。日本の昭和レトロなグッズやポスターは元々、彼女の趣味で集めていたもので、それが高じてネットショップで販売するように。そして2018年、ここに実店舗を開くに至った。さらに翌年には瑞金一路に2号店をオープン。そちらには男性向けの古着・オリジナルブランドの洋服や、ウルトラマンの怪獣フィギュアなどを置いているという。「家にはもっとコレクションがあるけどね」と彼女は笑う。

自室みたいな店づくり

現在はこの店舗経営と、洋服デザイン・販売の2足のわらじで生計を立てている小小さん。将来の目標を聞くと「今のままでOK」と淡々と答える。「若い頃は一流のフラワーデザイナーを目指したこともあったけど、今はおだやかな生活が一番だと思う」「日本では80歳ぐらいのおばあちゃんが、自分の店でゆっくり店番している。この店を長く続けて、老後はそんな風になりたい」と、達観した考えを聞かせてくれた。

自分のコレクションで埋め尽くされた店は自分の部屋同様。ここで仕事をすることはとても楽しく、毎日午後から閉店までは必ずいるという。そんな彼女の〝趣味部屋〟を覗きに、今日も老若男女が店を訪れている。

~上海ジャピオン2021年5月28日発行号

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