上海〝オタク〟カルチャー最前線

上海〝オタク〟カルチャー最前線


すでに日本文化の代名詞となった、アニメ・コミック・ゲーム

上海各地で関連イベントが開かれ、市内の専門店も増加の一途を辿る

上海の若者に浸透する、そんな〝オタク〟文化の最新事情を探った


アニメの主題歌が流れるステージ上に、奇抜なコスチュームの若者が次々登場する。やがて、原作の一場面を再現する劇が始まる。バックに流れるアニメ音声は日本語だが、観客はあまり気にしていないようだ。
 9月22日(土)、華獅広場で開かれた「日中文化観光交流イベント」の一幕。上海では、こうした〝コスプレ〟ステージが至る所で開かれている。主題となるのは、日本のアニメ、コミック、ゲームという、いわゆる〝オタク〟文化。頭文字をとって「ACG」とも呼ばれる、この文化の勢いが止まらない。
◇ ◇ ◇
 ことし4月に杭州で開かれた、中国最大のアニメイベント「第3回中国国際動漫フェスティバル」には、7日でのべ43万人が参加した。参加数を単純比較しても、日本最大のアニメイベント「東京国際アニメフェア」の4倍というから凄まじい。注目したいのは、主催が政府機関であることだ。
 こうした政府主導型イベントは、2004年以降、上海をはじめ、北京、広州など中国各地で盛んに開かれている。また国内20カ所余りに、国産アニメ振興を目的とした「アニメ産業基地」が建設されている(上海では華東師範大学内に設置)。
 急進する中国のアニメ・漫画戦略の根底にあるのは、日本のACG文化に惹き付けられる若者たちの存在だ。特にここ数年の浸透ぶりには目を見張るものがある。事情に詳しい百元籠羊さんはこう話す。
 「以前は、日本のアニメや漫画を知るルートは、テレビと出版物のみでした。それが90年代中期から普及したVCDにより、出回る日本アニメの種類が増え始めます。そして2000年以降のインターネットの普及で、一気に中国の〝オタク人口〟が増加しました」
 今では、上海でも大半の大学にアニメ・漫画サークル(動漫社団)がある。その活動内容は、日本人の想像以上に深い。

取材協力/百元籠羊 ウェブサイト「『日中文化交流』と書いてオタ活動と読む」運営http://blog.livedoor.jp/kashikou/

写真のステージの主題になっているのは、少年ジャンプで連載中の人気漫画『BLEACH』の一場面。

中国オタク用語
ほとんどが日本語からの輸入。漢字を知っておくだけで使える!?

御宅族

オタク。宅男、宅女と呼び分けることもある。ただし若い世代では「OTAKU」という発音がそのまま通じることも多い。これは邦画『電車男』の影響もあるようだ。

同人
日本語とほぼ同義で、特にアニメや漫画の同人誌や同人サークル活動をする人々を指す。ほかに「萌」「腐女子」など、日本から輸入されたオタク用語は数多い。

?莉控

ロリコン。日本語をそのまま音訳している。控(コン)を使う用語は、正太控(ショタコン=少年好き)、御姐控(お姉さん好き)、眼鏡控(メガネ好き)など豊富。

興味ある日本文化はアニメ


「舞台が近付くと、毎日集まって練習するんです。その時間が一番楽しい」
 上海大学コスプレチーム「神殿」の一員・陳雪さん(女性・20歳)は、ステージの経験8回のベテラン。同大学には会員300人のアニメ・漫画サークル「3C」(コミック・コスプレ・クラブ)があり、「神殿」にはそのうち35人が所属する。


学園祭としてのイベント

コスプレとは、特別な衣装を着てアニメなどのキャラクターになりきることだが、上海では日本より敷居が低く、参加層は小学生から20代後半までと幅広い。その理由として「神殿」の張洋さん(男性・21歳)は、市内で大々的に開かれるコスプレイベントの影響を挙げる。
 「上海には、『上海動漫展』『上海動漫カーニバル』などのアニメイベントが多い。上海展覧中心や上海体育館などで開かれるこうした大型イベントに、コスプレは欠かせない要素となってるんです」
 上海に日本のアニメ・漫画を紹介するテレビ番組「日本漫遊」を制作した松田奈月さんは、こうしたイベントが、上海の〝オタク〟層が注目されるきっかけになったのではと見る。
 「中国最大のゲームイベント『チャイナジョイ』の第1回開催が2003年。この頃から、各アニメイベントも大型化し、コスプレも注目されるようになったようです。また、中国のコスプレは団体戦なのが特徴。グループには監督、美術、振り付けなどの担当があるんです。中国ではクラブ活動や学園祭がないので、こういうところで盛り上がるのかも知れません」

写真の上海大学コスプレチーム「神殿」では、衣装作りは裁縫店に依頼する。費用は一着平均200元。中国のコスプレは、衣装を着るだけの日本と違って劇形式だが、日本以外では、コスプレに劇やカラオケなど動的な要素が入るのが普通。なお「3C」では、漫画を描く、フィギュアを買うなど、様々な活動グループがいる。


Jポップよりアニメ
こうした大規模なイベントの影響もあるせいか、日本アニメや漫画への興味は、すでに一部マニアのものではない。その状況は、マーケティング会社・インフォブリッジの協力で、10~20代の上海の若者へ実施した調査からも見えてくる。
 ここで興味ある日本文化を聞いたところ、「アニメ」「漫画」「ゲーム」などのACG文化がほぼ上位を独占。〝浜崎あゆみ〟に代表される「流行音楽」に比べ、「アニメ」を選ぶ若者が2倍いるという結果は、その浸透ぶりを改めて感じさせる。
 さらに、DVDや単行本などのACG関連商品については、過半数が30以上持っていると回答。これがいわゆるオタクに限定した調査ではないことを考えると、想像以上に多い印象を受けるのではないだろうか。

ネットを通してコア層へ
とはいえ、「今面白いと思う作品」への回答では、『ドラえもん』『クレヨンしんちゃん』など、低年齢向けタイトルが多くを占めており、アニメ好き=アニメに詳しいオタクとは限らない。しかし中には、日本でカルト的人気を集めたアニメ『涼宮ハルヒの憂鬱』が挙がるなど、そこには確かにオタクとも呼べる層が存在する。では、彼らはどうやってACGに関する情報を入手するのだろう。休日は5時間も自宅でアニメを観るという会社員の龍さん(女性・23歳)は、情報源はネットだと話す。「中国でアニメや漫画が好きな人は、大抵ネットを利用しています。最新作を観る手段はそれくらいしかないし、ネットの掲示板は同じ趣味の友人を見つける場所にもなるんです」

中国での人気作品

『一休さん』(?明的一休)

80年代から国内放映され、『ドラえもん』と並ぶ日本アニメの定番に。

『北斗の拳』(北斗神拳)
決め台詞「お前はもう死んでいる」の中国語「?已経死了」は流行した。

『ドラゴンボール』(七?珠)
アニメ・漫画とも有名。ちなみにアニメは『ドラゴンボールZ』以降は未放映。

『スラムダンク』(灌?高手)
中国にバスケブームを巻き起こし、あまりの加熱ぶりを批判する報道もあった。

『名探偵コナン』(名?探柯南)
日本での連載とほぼ同時に漫画が輸入され、今も息の長い人気作。

『NARUTO』(火影忍者)
現在の中国オタクのバイブル的作品。コスプレの対象としても定番。


中国では、海外アニメの放映規制が強いほか、海賊版が横行する実情もあり、日本のアニメや漫画を正規品として享受するのは難しい。この現状で、ネットで最新アニメや漫画を視聴するのは、〝オタク〟な若者にとって常識となった。
中には、日本での放映と同時に、そのアニメに中国語字幕を付けてネットにアップする「字幕組」と呼ばれるファン層がいるほど。こうした情報源によって、上海に住む日本人以上に、日本アニメ事情に詳しい若者も少なくない。

日本語は不可欠
「最新ゲームは、みんな日本語。ゲームの用語は限られてるから、なんとかなるんですよ」
 ダンボール3箱分の日本のゲームやDVDを所有するという会社員の李静さん(女性・24歳)は、ACGを楽しむには日本語力が不可欠だと話す。そこには、日本アニメの大半が、日本語音声(中国語字幕)で視聴されている実情もある。
 静安寺の動漫城で働く張杰さん(男性・23歳)は、アニメへの興味が高じて日本語を学び、今では流暢に会話する。
 「アニメは普通日本語で観るからね。アニメや漫画が好きで日本語を勉強する人は多いよ」
 日本語を習得したオタクの中には、日本の声優ファンもいるほど。昨年大学を卒業した崔林さん(女性・23歳)は、声優による音声ドラマCDを聴き、アニメソングを歌う。もちろん、すべて日本語だ。
 「高校のとき、アニメ『スレイヤーズ』を観て、電気が走ったんです(笑)。それ以来、石田彰さんのファン。関俊彦さん、保志総一朗さんも好きですね」

 そのために言葉を学ぶほど、強い影響力を秘めた日本の〝オタク文化〟。上海の若者と交流する近道は、例えばアニメキャラクターの中国語名を口にすることかも知れない。

上海のオタク聖地を巡る




日本を旅行するならどこへ行く? 
上海のオタクな若者にそう聞けば、大抵「秋葉原!」という答えが返ってくる。
アニメ、漫画、ゲーム商品が溢れる秋葉原は海外オタクにとっても〝聖地〟なのだろう。
では、上海ではどこへ行くのか。真っ先に挙がるのは、文廟だ。
 文廟は、豫園の南1・5㌔ほどにある孔子を祭ったほこらで、日曜に開かれる古本市でも知られる(ここには漫画もある)。
実はこの一帯こそ、アニメ、漫画、ゲームの関連商品を扱う小店が集まる、上海オタクの聖地。
文廟に隣接して書籍の卸売市場(文廟書利交易市場)もあり、観光としても楽しめる。
 このほか、上海には「動漫城」(アニメ・漫画の街)と呼ばれるスポットが2カ所ある。
いずれも、ビルの中に複数の専門店が並び、漫画、ゲームからフィギュア、コスプレ衣装までが揃う。
ローカル色の強い文廟に比べ、こちらは施設も新しく、日本からの輸入品も扱うオフィシャルなムード。
上海にある最新の聖地をぜひ体験してみよう。

オタクの聖地

文廟
入場料は通常10元、古本市は1元。隣接する卸売市場は、毎日15時半まで開いている。近辺の小店を観て回るのが楽しい。探している漫画があれば、店員に聞いてみよう。
住所:文廟路215号(×中華路)
電話:6376-1640
営業:9時~15時半(古本市は日曜のみ)

上海動漫城
2007年4月にオープンしたばかりの最新オタクスポット。2~4階にかけて約30の店舗があり、コスプレした店員が応対してくれる。日本語で話し掛けてみるのもいいかも。
住所:浙江中路396号(×南京東路)
電話:6351-8209
営業:10時~19時(金・土・日は20時)

炫動楽百動漫城
中国初のアニメ・漫画専門ショッピングセンターとして、2006年1月のオープン時には大々的に報道された。現在売り場は2階のみで、20軒ほどの店舗が並ぶ。
住所:南京西路1856号(×烏魯木斉北路)
電話:6249-3878
営業:10時~20時(店舗ごとに差あり)

~上海ジャピオン10月12日発行号より

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