中国アニメの世界

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4兄弟が中国アニメ牽引

アニメというと、日本の専売特許といったイメージが強いが、
アジアで初となる長編アニメ作品を製作したのは、
何と中国なのだ!
1941年1月に公開された『鉄扇公主』は、
日本でもお馴染みの古代小説『西遊記』に登場する、
〝芭蕉扇と火焔山〟のストーリーをもとに作られた。
1年半の歳月と100人以上に及ぶスタッフを動員し、
20万枚以上の作画用紙を使って完成した同作は、
1時間20分に及ぶ。
これを作り上げたのが、中国初の専門アニメーターで、
〝中国アニメの祖〟と言われる「万氏兄弟」である。
万氏兄弟とは、万籟鳴、万古蟾、万超塵、万涤寰の4兄弟で、
中国初のトーキー・アニメ『ラクダの舞(駱駝献舞)』や、
中国伝統文化の切り絵(剪紙)を使ったアニメ
『スイカを食べる猪八戒(猪八戒吃西瓜)』など、
数々の名作を世に送り出した。
また、万涤寰を除く3人は、1957年4月に創立した、
中国最大級のアニメ製作会社
「上海美術映画製作所(上海美術電影製片廠)」に入社。
万籟鳴が監督を務め、61年と64年に上下巻に分けて公開された
『大暴れ孫悟空(大閙天宮)』は、
ロンドン国際映画祭の最優秀映画賞を受賞するなど、
高評価を獲得し、彼らの代表作となった。

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日本では「羅刹女(らせつにょ)」という名で知られる「鉄扇公主」

日本を凌ぐアニメ大国に

70年代以降、万氏兄弟が第一線から退いてからも、
同製作所は、黒猫キャラの『黒猫の警官(黒猫警長)』や
『三人の和尚(三個和尚)』など、
広く知られるようになった様々な作品を手がける。
しかし、中国で作られるアニメは小学校低学年を対象とし、
啓蒙的な側面が強い。
その結果、80、90年代以降に、
小学校高学年や中高生も楽しめる、『ドラゴンボール』、
『聖闘士星矢』、『ミュータント・タートルズ』といった、
日本やアメリカのものが大量に導入され人気になると、
中国アニメ離れが進んできた。
アニメの生産も、年を追うごとに下火になってくるのだった。
これに対し中国政府は、国産アニメの振興策を講じ、
2006年9月より、17時~20時
(08年には~21時に拡大)における、
外国アニメの放送禁止に転じる。
このためか、11年には、中国産テレビアニメは
製作時間4337時間、385タイトルと、
放送制限前の約6倍となり、
11年の日本の製作時間1590時間、221タイトルを
大幅に上回るアニメ大国に。
中でも、中国版アンパンマンとも言うべき
『喜羊羊と灰太狼(喜羊羊与灰太狼)』は、05年の放送開始以来、
約1000話を放送する大ヒットとなり、
国内外のアニメ関係者の注目を集めている。
では、基礎知識が頭に入ったところで、
中国アニメの礎を築いた上海美術映画製作所や、
アニメ博物館の様子を見ていこう。

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数々のアニメを作り上げた、万氏兄弟

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防空壕にアニメ展示室

今回、取材班が訪れた上海美術映画製作所は、
静安寺から程近いところに位置する。
広報担当の張さんにまず案内されたのは、地下室。
階段を降りて行くと、重厚な二重扉が見える。
秘密保持のためにかくも厳重なのかと感心していると、
張さんは、「ここは昔、防空壕として機能してたのよ」
と解説してくれた。
地下室では、製作所が作ってきた何百もの
主要なアニメ作品の歴史や、かつての製作現場の様子を
窺い知ることができるスペースとなっている。
創立50周年を記念して作られた、
アニメキャラ大集合のお宝ポスターから、
初代所長と手塚治虫が交流する様子を捉えた写真、
壁一面にズラリと並ぶ作品のイラスト…
製作所の歴史の長さに思わずため息が溢れるのだった。

童心に返り効果音作り

ほかに、録音室や雑然とした作画机の様子を
再現した部屋もあり、アニメーター気分を味わうことができる。
効果音作り体験では、
丸い竹製のザルに大豆を入れて回すと雨の音に、
ゴムハンマーで小石を叩くと馬の蹄の音になるなど、
思いもよらぬ音が出来上がる楽しさに、
一同童心に返ってはしゃぎ、張さんは苦笑の連続だった。
また、部屋に何気なく飾られている作品は、
伝統技法の切り絵(剪紙)を使ったアニメに、
山水画の世界を表す水墨アニメなど、
中国独特のアニメの撮影素材で、
すべてが工芸品のような繊細さを持つ。
特に切り絵は、スムーズに動くように、
頭のてっぺんから足の爪先まで、
小さなパーツに切り分けられている。
根気強さと高い技術が必要になることは明白で、
張さん曰く、
「2000年を最後に、切り絵アニメは作られてないですね」と
寂しそうな表情を見せた。

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2000万元の機器

1階に戻ると、製作所随一のお宝を見学させてもらえることに。
年代物のセル画アニメ撮影台だ。
かつてアニメのほとんどが、セルと呼ばれる
透明シートに彩色された絵「セル画」に、
背景を組み合わせて撮影することで動画を作っていたため、
撮影台の性能が悪いと表現できないものも多かった。
解説してくれた銭技師によると、この撮影台は、
1973年頃に20万元、現在の価値にして
2000万元をかけて作られたという、超高級品だ。
全盛期には11台を所有していたが、
デジタルアニメが主流になると活躍の場は激減。
撮影台を愛おしむように優しく操作する銭技師…
その光景は、引退した〝2人〟が昔話に花を咲かせているかのようだった。

アニメ製作はパソコンで

本来ならこれで参観は終わりなのだが、
特別に製作現場の様子を見せてくれることに。
そこには、背景画や人物画が壁に貼られ、
レイアウト用紙やセルが山積み…
そんな世界は、すでにどこにもなかった。
パソコンが置かれ、モニターに直接特殊なペンを走らせて
作画、着色し、再生ボタンをポンと押すだけで、キャラが動き出す!
1999年に完成した、上海美術映画製作所最後の
長編セル画アニメともいうべき『宝蓮灯』では、
10万枚以上のセル画を描き、前述の撮影台4台を
8カ月フル稼働させて撮影した。
その作業も、同様のパソコンが数台あれば
あっさり片づきそうなハイテクぶりに、
取材班は度肝を抜かれるのだった。
今回取材班は体験できなかったが、参観前に希望すれば、
上映室で製作所の作ったアニメを鑑賞できるとか。
次回は大画面で昔の名作鑑賞をしようと誓い、
製作所を後にする取材班だった。

上海美術映画製作所(上海美術電影製片廠)
住所:万航渡路618号(×武定西路)
TEL:6252-7460
営業時間:9時~17時
料金:50元(30人以上の団体のみ受付。要1週間前予約)
URL: www.ani-sh.com

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手塚治虫のイラストも

続いて訪れたのは、浦東新区の張江ハイテクパークにある、
アニメとマンガの博物館。当日はロビーでコミケが開かれており、
コスプレをした〝大きなお友達〟らで賑わっていた。
コスプレイヤーたちをかき分け中に入ると、
アニメやマンガの歴史を紹介するコーナーが出迎えてくれる。
上海美術映画製作所の紹介と違うのは、
海外のアニメも紹介しているところだ。
ただ、今回の特集テーマは〝中国アニメ〟。
取材班は、スパイダーマンやドラえもんなどには脇目もふらず、
中国アニメ展示・紹介スペースへ向かう。
そこには、〝中国アニメの祖〟と呼ばれた
万氏兄弟の作業場を再現した一角があった。
彼らは、実際に上海の古い住宅「老房子」の
狭い角部屋で行っていたらしく、その雰囲気がよく現れている。
この博物館では、上海美術映画製作所でも紹介されていた
中国の有名アニメのセル画に加え、絵コンテ、
人形アニメの舞台装置など、展示物が非常に多く、
その数は製作所の展示数を軽くオーバー。
中でも、日本の手塚治虫によって描かれた、
孫悟空と鉄腕アトムが肩を組んだイラストは必見だ。
とても微笑ましい絵に、こんな日中コラボはいいね
という声も聞こえてきた。
2階は、体験スペースになっており、
フィギュア作りやアニメキャラに声を当てるアフレコも可能だ。
20元で5パターン程度のアフレコができるとあり、
取材班もチャレンジと張り切るも、「本日休業」の文字が…。
もやもや感が残る中、取材班の間で、
アニメ名台詞の掛け合いが始まり、そのままお開きとなった。

上海アニメ&マンガバレー(張江動漫谷)
住所:浦東新区張江路69号(×丹桂路)
TEL:5895-7998
営業時間:10時~17時(月曜休み)
料金:30元
URL:www.sh-moca.com

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~上海ジャピオン2013年4月19日号

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