蘭州拉麺を徹底解剖

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甘粛省蘭州市の庶民の味

上海で生活する者にとって、馴染み深い店の1つである蘭州拉麺。市内を2㌔ほど歩けば1軒は見つかる、というほどの店舗数を誇る。夜遅くまで営業し、1品15元前後と低価格な点も魅力。今や中国全土、ひいては海外にまで展開している。

同店の基本メニュー「牛肉拉麺」の発祥地は甘粛省蘭州市。正式名は「蘭州牛肉拉麺」と言い、起源は清代にまで遡る。

1915年、かつてこの街に、馬保子なる人物がいた。極貧生活から抜け出すため、彼は自宅で作った「牛肉麺(牛肉ラーメン)」を売り歩いた。しかしこれが全く売れなかったため、牛と羊の臓物をスープに入れたところ、その香りに釣られた村人が次から次へと買い求め、たちまち有名に。その後、店舗を持つようになり、子孫が後を継いでいった。この馬保子の牛肉麺こそが、今日の蘭州牛肉拉麺の元祖とされている。リュウさん曰く、蘭州の人たちにとってもはや常食で、毎朝食べているのだとか。

実は街の蘭州拉麺は…

さて、この蘭州拉麺だが、似たような清真系の店を含めると、市内に6万店以上ある。「小西北牛肉麺」(写真②)や「精品牛肉麺」(写真③)のように店名が異なる店舗もあるが、メニューはよく似ている。しかし、これらのほとんどは、青海省出身の人たちが開いた個人経営の店で、味も本場のそれとはまた異なる、とリュウさんは語る。ただ、中には蘭州市の公的機関「蘭州市商務局(蘭州市商務委員会)」と「蘭州商業聯合会」の認可を受けている店(写真④)もあり、リュウさんによると、こちらは本場の味にかなり近いのだという。

とはいえ、市民の生活にこれだけ浸透している蘭州拉麺。本場の味か否かはこの際置いておき、独特の店構えやメニューなど、詳しく追っていこう。

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華麗な麺打ちショー

店名を「蘭州〝拉麺〟」というだけあって、メニューには麺料理が多い。店舗の多くは、客席から麺を打つ現場が見えるよう、キッチンからは離れた‘客席近くに麺打ち場を設けている(写真①)。作り置きはせず、オーダーが入ってから打ち始めるので、コシの強い打ちたての麺が味わえるのだ。

麺打ちは、体力的な負担から男性が担当する。基本は棒状にこねた麺生地を叩きつける↑ねじる↑引っ張る、の工程を5回ほど繰り返し(写真③)、その後かん水を加え、両端を切ってさらに引っ張り、麺を細くしていく。トン、トン、トンとリズミカルに麺を打ったり伸ばしたりして、太かった生地があれよあれよという間に、太かった生地が糸のように分かれていく光景は、まるで手品のよう。技術と経験が物を言いそうだが、早い人なら1週間、遅い人でも1カ月で習得できるとリュウさんは話す。

回族の料理人

店に一歩入ると、男性店員が皆帽子(ソンコ)を被っていることに気付く(写真④)。これは回族の習俗で、男性は30歳以上を過ぎると必ず被ることになっているのだとか。ちなみにこれらの清真料理店では、飲酒や喫煙、他店で購入した飲食物の持ち込みは厳禁なので要注意。

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メニューは約100品!

気になるメニューだが、大抵の店舗では壁に写真付きの大きなメニューや料理名と価格の書かれた一覧が貼られている。中国語が苦手な人は、写真を指して注文することも可能だ。料理は、「特色面食(麺類)」、「蓋浇麺(具材ぶっかけ麺)」、「蓋浇飯(丼めし)」のほか、一品料理やスープなどに分けられ、計約100品といったところだろうか。

定番の「牛肉拉麺」は、牛肉と牛骨をベースにしたあっさりスープ。具材には、牛肉とネギ、パクチーが入り、追加料金で「目玉焼き」や「牛肉」などもトッピングできる。本場蘭州では、これにダイコンや葉ニンニクも加わり、スープもトウガラシが入ってもっと赤く、味も濃厚だ、とリュウさん。さらに、麺の細さや幅も選ぶことができるのだそうだ。細麺は、直径約1㍉の「毛細」、通常の細さの「細」、「細」よりやや太目の「二細」、さらに太い「三細」の4種類。また麺の幅は、約4㌢の「大寛」、それに次ぐ「寛」、「韮葉」、「二柱子」と続く。オーダー時には、メニューと一緒に伝えよう。太さや幅で味が変わってくるので、それぞれ試してみるべし、とリュウさんは力説する。

このほか、包丁で麺を削る実演を見られる「牛肉刀削麺」(写真⑤)や、幅が広く日本のほうとうに似た「牛肉烩麺」も人気。また、茹でた烩麺に羊肉とピーマン、タマネギ、さらには青ピーマン、エリンギとトマトソースがかかった「新疆拌麺(新疆風混ぜ麺)」(写真⑥)はボリューム満点でリュウさんの好物だとか。ぜひチャレンジしよう。

もちろん麺以外のメニューも侮れない。クミンの香り豊かな「孜然羊肉蓋浇飯(クミンと羊肉のスパイシー丼)」や、あっさりして食べやすい「青椒土豆絲蓋浇飯(ピーマンとジャガイモ炒め丼)」(写真⑧)も根強い人気だ。

また、壁のメニュー(写真⑨)を見ていると「羊肉串(羊肉の串焼き)」(写真⑩)や「牙簽羊肉(羊肉の爪楊枝刺し)」があるが、これらを頼んでみるとなぜか「没有」と回答されることが多い。問い質すと、「昔はあったが今はない」、「もともと出していない」などと言う。リュウさんによれば、イメージ写真としてメニューにあるだけとか…。何だか腑に落ちないが、ちゃんとこれらを出す店舗もあるので、試しにオーダーしてみるべし。

市内に数え切れないほど店がある蘭州拉麺。次ページから、その中でもオススメのお店を紹介していく。

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敦煌楼蘭州清真牛肉拉麺

蘭州人が作る本格麺 本場の味を再現

最初に紹介するのは、普陀区の軌道交通「鎮平路」駅近くに位置する「敦煌楼蘭州清真牛肉拉麺」。蘭州市出身のオーナーが開いた同店は、前述した「蘭州市商務局」などの公的機関に認定されている店だ。

同店の看板メニュー「牛肉麺」(12元)は、ラー油を加え、少し赤く染まったスープが特徴。8段階から選べる麺の細さと幅で、味わいも変わる。そのほか、蒸した羊肉をガブリといただく「手抓羊肉」(45元/250㌘)や、麦のデンプンでできた「特色蘭州牛皮」(16元)も牛肉麺とぜひ一緒にどうぞ。同店は市中心からやや少し遠いが、長寧路436号にも店舗を持つ。

市内で最も本場蘭州に近い味と評判の麺を食お試しあれ!

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長風清真館

長風公園憩いの料理店 料理は200品以上

お次は、長風公園近くの清真系レストラン「長風清真館」。20年以上この地に店を構え、付近では名の知れた店とのこと。週末になると、店内は近隣住民の常連客や公園を訪れたファミリーで満席になる。

同店はメニュー数が抜群に多く、その数何と200種類以上。また、やや濃い目の味付けも魅力のひとつ。名物の「新疆小盤鶏」(48元)はミニサイズながら、3人でやっと完食できるくらいのボリューム。秘伝の自家製トマトソースがホクホクのジャガイモとジューシーな鶏肉に絡み、一度食べ出すと止まらない。ちなみに、ソースはトマトのほか、カレー味も注文可。
公園に寄ったら、必ず訪れたい場所だ。

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蘭州一拉餐庁

学生御用達の店 校外の隠れた学生食堂

「蘭州一拉餐庁」は、市の北部、五角場エリアの復旦大学近くに店舗を構える。昼夜を問わず同大学の生徒で混み合い、賑やかな声が鳴り響く。価格も学生向けに設定されているのか、平均15元以下と安く、おまけにボリュームも満点。

人気メニューの1つ「新疆干拌麺」(15元)は、一見スパゲッティのようだが、コシのある麺にトマト風味のソースがかかっており、羊肉やキュウリ、タマネギなどと一緒に混ぜて食べる。「干(乾)」の字が示す通り、汁気が少ないうえ、麺には下味の塩が効いているので、スープも一緒に注文するのがオススメ。

若い人たちに混じり、〝学生食堂〟の蘭州拉麺を味わってみよう。

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精品牛肉麺徐匯店

街中の清真系料理店 珍しいメニューも

徐家匯の漕溪北路にある「精品牛肉麺徐匯店」。外観はどこにでもある清真系料理店だが、ビジネスエリアに位置しているため、ランチタイムにはサラリーマンやOLの姿が目立つ。

店長曰くイチオシは「紅焼羊肉」(40元)や「紅焼牛肉麺」(15元)とのこと。西北料理の〝紅焼〟とは、上海料理の「紅焼肉(豚の角煮)」のような甘い味付けではなく、トマトソースと油をベースにしたもの。また、牛肉の水餃子をトマトスープに混ぜた「牛肉烩餃」(18元)や「餅(パイ)」を麺状に切って炒めた「牛肉炒餅」(14元)など、ほかの清真系の店ではあまり見かけない料理も取りそろえる。

~上海ジャピオン2013年10月25日号

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