大人の絵本ブーム
中国台湾出身の絵本作家・ジミー(幾米)。素朴で可愛らしいタッチに色使いも多彩で、ちょっぴり切なくやさしい世界を描き出します。日本やヨーロッパなど全13カ国語に翻訳されており、中国の作家としては、トップクラスの知名度を誇ります。それまで絵本文化が根付いていなかった中国に、大人の絵本ブームを巻き起こした人物と言われています。
また、彼は多作でもあり、1998年に創作活動を始めてから、年に2冊ほどのペースで作品を発表し続け、ファンを喜ばせています。サイフやバッグなど、彼のイラストを使ったグッズも大人気なので、どこかで見かけた人も多いかもしれませんね。
孤独な子どもたち
ジミーの作品にはよく、孤独な子どもが登場します。月が空から姿を消して混乱する世の中、記憶をなくしてしまった月と、その月を見つけた少年のお話『君といたとき、いないとき(月亮忘記了)』や、友達との約束を守るため、イヌをお供に、1人の少女がサーカスへと向かう『走向春天的下午』など。周りから存在を忘れられていたり、仲の良かった友達がいなくなったり…。物語の結末はぜひ、絵本を開いて読んでみてください。
そのほか、都会に住む男女のすれ違いラブストーリー『君のいる場所(向左走・向右走)』や、ずっと部屋にこもっていた盲目の少女が、誕生日をきっかけに1人で街へ冒険に出かける『地下鉄』など、映画化・舞台化された作品も多数。またちょうど今は、市内黄浦区西蔵北路のショッピングセンター「ジョイシティ(大悦城)」で、特別展が開催されています。2月28日(火)までの展示なので、物語を読む前に行ってみても楽しそうです。
伝統芸術をモチーフに
中国を代表する絵本作家の1人、熊亮。小さい頃から水墨画に親しんでいましたが、何と絵を専門的に学んだことがないのだとか。自分の子どもが生まれた20代後半頃に絵本の創作に目覚め、作品作りに専念しようと、貿易関係の会社を辞めたそうです。自ら、何にでも興味を持つタイプだと話すように、作品によって新しい表現に挑戦する作家です。
彼はまた、水墨画や京劇、切り絵など、中国の伝統芸術からインスピレーションを受けて創作をすると言います。ネコが京劇を演じる『京劇猫』や、中秋節にお供えするウサギの人形を主人公にした『兔児爺』など、中国文化をモチーフにした作品がたくさん。中でも、第1作目の『ちいさなこまいぬ(小石獅)』は、小さいながらも誇り高く、愛情いっぱいに街を見守ってきた狛犬をやさしく描き出しています。この作品が一番好き、というファンが多いのも納得の1冊です。
カフカの作品を絵本で
可愛らしい真ん丸ボディのキャラクターが登場する絵本を読んだ後には、想像がつきにくいでしょうが、実は熊亮は、少々気味が悪かったり、怖かったりする絵も好きなのだそうです。大雨が降り続く街に住む人々のお話『梅雨怪』、『梅雨怪2』を読むと、美しくも不気味な熊亮ワールドを覗くことができます。
また、不条理な小説で知られるドイツの作家、フランツ・カフカの『変身』を『変形記』、『断食芸人』を『飢餓芸術家』という絵本で表現しており、こうした作品群も独特の怖さを持った仕上がりとなっています。1冊1冊、異なった顔を見せる熊亮の絵本。中国文化に親しみたい時、異世界を垣間見たい時など、彼の絵本を開けば、様々な世界に遊びに行けることでしょう。
画家として高い評価
陳江洪は、北京の美術大学を卒業後、パリに留学。そのまま向こうで創作を始めたという、ほかの絵本作家たちと比べると、少し変わった経歴を持つ作家です。元々、画家として活動し、高い評価を受けていましたが、ある本の挿絵の仕事をきっかけに、オリジナル作品を手掛けることになったそうです。
彼の作品の特徴は、何と言っても水墨画の技法を使った迫力ある絵。幽玄で美しい山水に、荒々しい動物、ごうごうと燃え盛る炎…。ページをめくる度、まるで絵画を鑑賞するように、じっくりと見入ってしまいます。モチーフとなるのは、中国の神話や民間に伝わるおとぎ話など。例えば『ハスの花の精リアン(小蓮)』は、貧しいけれど善良な漁師とリアン、とても欲張りな王様とお姫様が、鏡合わせのような存在として登場します。欲張り者には恐ろしい罰が当たるのが、おとぎ話の常。怖い結末は、子どもだけではなく、大人の心をも揺さぶることでしょう。
独ブックフェアで受賞
そのほか、彼の作品は、ドイツのブックフェアで受賞しています。8世紀の中国に実在した天才画家ハン・ガンが描いた絵画から、馬が飛び出して戦場へ駆けていくお話『この世でいちばんすばらしい馬(神馬)』、子どもを殺され、憎しみから人を襲うようになったトラと、それを静めるために差し出された幼い王子のお話『ウェン王子とトラ(虎王子)』は、同年に受賞し、ヨーロッパを中心に各国で翻訳されています。
出来上がりに納得がいくまで、じっくりと時間をかけて作品を作り上げていくという陳江洪。決して多作ではありませんが、彼の芸術家、作家としてのこだわりが詰まった絵本は、絵の力というものを私たちに教えてくれます。
世界絵本ランクにイン
幼い頃から美術が大好きだったという朱成梁は、上海出身の作家です。美術関連の出版社に勤めながら、多くの絵本の挿絵を手掛けています。
彼は1980年に絵本作りを始め、初期の作品が高評価を受け、様々な賞を受賞しました。しかしそんな彼の知名度を一気に挙げたのは、やはり、2008年に出版された『団圓』。父娘の愛情を中国の伝統的な年画のようなタッチで描いたこの作品は、アメリカの雑誌『ニューヨーク・タイムズ・ブックレビュー』の「11年度・世界子ども絵本ランキング」に選ばれたそうです。
画を描く=映画作り
そのほか、作者本人が気に入っているという作品に、『火焔』があります。これは、日本でもおなじみ『シートン動物記』シリーズの『スプリングフィールドのキツネ』をベースに、母親の愛をテーマに作られました。
また、日本の出版社が企画した、9人の絵本作家たちによる『地球的同一天』という作品もオススメです。アメリカ、ロシア、ケニアなど世界8カ国のお正月の過ごし方を、各国出身の著名な作家が描くのですが、ここで中国から参加したのが朱成梁。真っ赤な背景に切り絵風の絵で、爆竹を鳴らしたり、サンザシの飴を食べたりして新年を過ごす子どもたちが活き活きと映し出されています。この本の面白いのが、地球上の同時刻に起こる出来事を描いているところ。例えばイギリスで深夜を周る頃、中国では朝を迎えるなど、国や習慣が違っても、私たちが丸い地球上で一緒に生活を送っているということを絵で見せてくれるのです。
「絵を描くことは、映画を撮ることに似ている」と語る朱成梁。彼の作品を読めば、ステキな映画を観た後のような余韻に浸れることでしょう。
~上海ジャピオン2014年1月24日号